十時裕樹副社長兼CFO
ソニーグループは4月28日、2020年度(2020年4月~2021年3月)の連結決算を発表した。それによると、売上高が前期比9.0%増の8兆9993億円、営業利益が同15.0%増の9718億円、当期純利益が101.3%増の1兆1717億円と売り上げ、利益とも過去最高を更新し、最終利益は5896億円も増えて初めて1兆円を超えた。(経済ジャーナリスト・山田清志)
10年単位での積み重ねの成果
「最終利益の1兆円達成は、急に企業が変化したのではなく、10年単位での積み重ねの成果によって実現したものである。また、金融分野を除く、連結ベースの営業キャッシュフローは、2020年度で1兆1222億円。3年間累計では第3次中期経営計画(2018年度~20年度)の目標を大幅に超過した」と十時裕樹副社長兼CFOは振り返った。
2020年度連結業績
セグメント別の業績を見ると、まずゲーム&ネットワークサービス(G&NS)分野は売上高が前年度から34%と大幅増の2兆6563億円、営業利益が1038億円増の3422億円となった。プレイステーション5の発売にあたり、販売費や一般管理費の増加があったものの、主にゲームソフトウェアやネットワークサービスの増収により、この分野での過去最高益を記録した。
2021年度のG&NS分野の業績見通しは、売上高が9%増の2兆9000億円、営業利益が172億円減の3250億円と減収減益を予想。「PS5に対する非常に強い需要に対して、供給が十分に追いついていない状況が続いている。半導体を中心としたデバイスの供給制約が今年度も継続すると想定され、PS4導入2年目の販売台数である1480万台を上回ることを現時点の目標としている。お客さまからの強い需要に応えられるよう、引き続き部材の確保に努め、この目標を上回る台数の生産、販売に向け、全力で取り組んでいきたい」と十時副社長。
2020年度セグメント別業績
ちなみに2021年3月におけるプレイステーションユーザーの総ゲームプレイ時間は、コロナの影響がなかった一昨年同月比で約20%増と引き続き好調を維持し、2021年度においても、強いユーザーエンゲージメントを継続できると想定しているそうだ。現在、4760万人の有料会員がいて、今年度も有料会員数の拡大を目指していくという。
「鬼滅の刃」効果が薄れて音楽分野は今期減益に
音楽分野の業績は、売上高が11%増の9399億円、営業利益が457億円増の1881億円だった。ストリーミングの売り上げが約22%増と引き続き高い成長を遂げたのに加え、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の歴史的な大ヒットが貢献した。また、日本におけるモバイル向けゲームアプリやアニメを含む映像メディア・プラットフォームからの利益貢献が大幅に増加し、同分野全体の営業利益の3割弱を占めているとのことだ。
2021年度の同分野の業績見通しは、売上高が5%増の9900億円、営業利益は261億円減の1620億円とした。「前年度には一時的な利益計上や『鬼滅の刃』の歴史的な大ヒットなどがあったことに対し、今年度はモバイル向けゲームアプリの利益貢献を慎重に見ているのが理由だ」と十時副社長は説明する。
2021年度セグメント別業績見通し
映画分野は売上高が2531億円と25%の大幅減収となったものの、営業利益は123億円増の805億円だった。「新型コロナの影響による劇場公開作品の大幅減やテレビ番組の製作、納期遅れなどが影響したが、映画製作におけるマーケティング費用の大幅減や、映画作品のホームエンタテイメントやテレビ配信向けの売り上げが好調で増益になった」という。
2021年度の同分野の業績見通しは、売上高が50%増の1兆1400億円、営業利益が25億円増の830億円とした。映画製作での劇場公開の再開に加え、テレビ番組製作やメディアネットワークの回復などから、増収増益を見込む。特に米国の大都市での劇場公開が再開し、ヒット作の続編が貢献すると見ている。
イメージセンサーは米中貿易摩擦で大幅減益
エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)分野については、売上高が4%減の1兆9207億円、営業利益が519億円増の1392億円だった。デジタルカメラなどの販売台数減や為替影響により減収となったが、モバイル・コミュニケーションを中心としたオペレーション費用の削減やテレビなどの製品ミックス改善によって、大幅な増益となった。
「2020年度は年間を通じてコロナをはじめさまざまな要因により断続的に部品サプライチェーンに供給制約が起き、当分野も大きな影響を受けたが、変化に機敏に対応することで高い収益性を確保できた。また、課題であったモバイル・コミュニケーションについても、当初計画を上回る大幅な黒字を達成することができた」と十時副社長は説明する。
EP&Sの通期見通しは、売上高が9%増の2兆2600億円、営業利益が139億円増加の1480億円。EP&S分野は2021年4月から新生ソニーの下に集結したが、「引き続き事業環境は予断を許さないが、20年度の困難な事業環境をマネージしたメンバーからなる新しい経営チームで、変化に強いレジリエントな事業運営を継続していく」そうだ。
2021年度連結業績見通し
イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)分野については、売上高が5%減の1兆125億円、営業利益が1459億円と前期に比べ897億円の大幅減だった。主にモバイル機器向けイメージセンサーの販売減が影響。特に米中貿易摩擦で、ファーウェイ向けの出荷が一時停止したことが響いた。
I&SSの通期見通しは、売上高が前年比12%増の1兆1300億円、営業利益が59億円減の1400億円と増収減益。2021年度はこれまで進めてきたモバイルセンサー事業の顧客基盤拡大により、数量ベースでの市場シェアを19年度並みまで戻すことを想定して、積極的な事業運営を進めていくという。そのために研究費を前年度比15%にあたる250億円程度増やす計画で、設備投資についても前年度後ろ倒しにした投資分を含めて2850億円を予定している。
「足元では半導体不足が顕著になっているが、イメージセンサーに用いるロジック回路半導体については、パートナー各社の協力の下、今年度の生産計画をカバーするキャパシティの確保は、すでにメドがついている」(十時副社長)という。
23年度までに2兆円以上の戦略投資
最後に金融分野については、売上高が前期から28%増の1兆6689億円、営業利益が350億円増の1646億円と、大幅な増収増益を達成した。2021年度の見通しは売上高が16%減の1兆4000億円、営業利益が54億円増の1700億円とした。
その結果、ソニーグループ全体の2021年度業績見通しは、売上高が9兆7000億円、営業利益が9300億円、当期純利益が6600億円とした。ソニーでは、これまで米国会計基準だったが、2021年第1四半期から国際財務報告基準(IFRS)に変更しており、今回の通期業績見通しはIFRSで発表している。
また、十時副社長は2021年度~23年度の第4次中期経営計画について触れ、「売り上げと利益のバランスが取れた成長を目指す」として、3年間累計の調整後EBITDAで4.3兆円の目標に掲げた。さらに、1兆5000億円の設備投資枠、2兆円以上の戦略投資枠を設けることを明らかにした。具体的には、5月26日に行う経営方針説明会で吉田憲一郎CEOが発表するそうだ。