ソニーは2月18日、業界初(※車載LiDAR向け積層型測距センサーとして。2021年2月18日広報発表時点)となるSPAD(Single Photon Avalanche Diode)画素を用いた車載LiDAR(ライダー)向け積層型直接Time of Flight(dToF)方式の測距センサーを開発したと伝えた。
この成果は、2021年2月13日(土)から開催されているISSCC(国際固体素子回路会議)において発表されている。
先進運転支援システム(ADAS)の普及や自動運転(AD)の実現に向けて、カメラやミリ波レーダーなどのセンシングデバイスに加え、道路状況や、車両、歩行者など対象物の位置や形状を、高精度で検知・認識が可能なLiDARの重要性が高まっている。
SPADとは、入射した1つの光子(フォトン)から、雪崩のように電子を増幅させる「アバランシェ増倍」を利用する画素構造のことで、弱い光でも検出することができる。光源から発し対象物で反射した光が、センサーに届くまでの光の飛行時間(時間差)を検出し、対象物までの距離を測定するdToF方式の受光素子として用いることで、長距離かつ高精度な距離測定が可能となる。
同開発品は、ソニーがCMOSイメージセンサー開発で培ってきた裏面照射型、積層型、Cu-Cu(カッパー・カッパー)接続などの技術を活用することにより、SPAD画素と測距処理回路を1チップ化し、小型ながら高解像度を実現したもの。
これにより、最大300mの距離を15cm間隔で、高精度かつ高速に測定できる。また、さまざまな温度環境や天候など、車載用途に求められる厳しい条件下での検知・認識による信頼性の向上や、1チップ化することによるLiDARの低コスト化に貢献するとのことだ。
なお、Cu-Cu(カッパー・カッパー)接続は、画素チップ(上部)とロジックチップ(下部)を積層する際に、Cu(銅)のパッド同士を接続することで電気的導通を図る技術。画素領域の外周の貫通電極により、上下のチップを接続するTSV(シリコン貫通電極)に比べて、設計自由度や生産性の向上、小型化、高性能化などが可能といわれている。
ソニーでは、同開発品を搭載したMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)方式(※光源から発した光をMEMSミラーで走査する方式)のLiDARも評価用として開発し、顧客やパートナーに向けてすでに提供を開始している。
以下、今回発表された開発品についての詳細となる。
◾️ SPAD画素の原理
dToF方式を用いた測距センサーでは、単一光子の検出を行うSPAD画素が用いられる。SPAD画素内の電極にブレークダウン電圧(VBD)を印加し、その電圧を超える過剰エクセスバイアス電圧(VEX)に設定した状態で光子を入射させることで、光電変換により発生した電子がアバランシェ増倍によって増幅する。電極間の電圧がブレークダウン電圧まで低くなると、アバランシェ増倍は停止する。アバランシェ増倍により発生した電子が放電され、ブレークダウン電圧まで戻った後(クエンチング動作)、再び電極間の電圧を過剰エクセスバイアス電圧に設定すると、光子が検出できる状態に戻る(リチャージ動作)。このように、光子の到来時刻を開始点とする電子の増倍動作は、ガイガーモードと呼ばれている。
◾️ 開発品の主な特徴
1)最大300mの距離を15cm間隔で高精度に測距
裏面照射型のSPAD画素構造を用いた画素チップ(上部)と、測距処理回路などを搭載したロジックチップ(下部)を、Cu-Cu接続を用いて一画素ごとに導通している。これにより、光を取り込む画素以外の回路部を下部に配置することで、開口率(※ 1画素当たりに光入射面側からみた遮光部以外の開口部分の割合)を高め、22%の高い光子検出効率を実現したのに加え、チップサイズは小型ながら、10μm画素サイズで有効画素数約11万(189画素×600画素)の高解像度化を図った。最大300mの距離を、15cm間隔で高精度に測距することが可能になり、LiDARの検知・認識性能の向上を支える。
2)独自のTime to Digital Converter(TDC)とパッシブ型クエンチング/リチャージ回路を活用した高速な応答速度
検出した光子の飛行時間をデジタル値に変換するTime to Digital Converter(TDC)とパッシブ型クエンチング/リチャージ回路を独自に開発し、画素ごとにCu-Cu接続することにより、一光子あたりの応答速度を通常時6ナノ秒(※温度環境60℃の場合)に高めることが可能となる。
3)厳しい条件下での安定した光子検出効率および応答速度
独自のSPAD画素構造により、-40℃から125℃の厳しい条件下においても、安定的な光子検出効率および応答速度を実現。
◾️ 主な仕様
SPAD画素数 :189画素(H)×600画素(V) 約11万画素
イメージサイズ :対角6.25mm(1/2.9型)
推奨光源波長 :905nm
SPADユニットセルサイズ :10µm×10µm
エレメントサイズ(ToF画素単位) :3画素(H)×3画素(V)
消費電力 :1,192mW
光子検出効率 :22%
応答速度 :6ns
飽和信号量(最大カウントレート) :60,000,000cps
最大検知距離 :300m
300m測距時の距離精度 :
3画素(H)×3画素(V)加算モード:30cm
6画素(H)×6画素(V)加算モード:15cm