IAAで電動バンをベースに開発した水素商用車のデモカーを披露
シェフラーAGは中央ヨーロッパ夏時間の9月20日、独・モーターショー「IAAトランスポーティション( ハノーバー )」に於いて、市販の電動バンをベースに開発した水素商用車のデモカーを披露( ホール12のブースB37と屋外エリアのU47ブースに出展 )した。( 坂上 賢治 )
このデモカーには、シェフラー製コンポーネントで構成される連続出力50kWの燃料電池を搭載。最大出力は85kWを誇る。これに容量13kWhのバッテリーを組み合わせ、駆動システムには、パワーエレクトロニクス機能を内蔵したシェフラーの「3in1 e-アクスル」を組み込んだ。
結果、総じてパワートレインから駆動システムに至る全域で、自社製コンポーネントを組み合わせた構成だとシェフラーでは謳っている。そもそも同社は予てより、商用車向け駆動システムの開発で、特に〝長時間運転する車両並びに同関連領域〟に向けて水素技術を磨いている。ここのところは、燃料電池ユニットのコンポーネントを開発中で、それらの量産化に取り組んで来た。
燃料電池ユニットが活躍する舞台は当面、長距離・長時間運転向けへ
同社のオートモーティブ・テクノロジー事業部を統括するマティアス・ツィンクCEOは、「当社の燃料電池ソリューションは、世界の商用車向け駆動技術分野で重要な役割を果たすと考えています。
なお今回のIAAトランスポーティションで世界初披露した商用EVバンベースのデモカーは、一部、中国の水素燃料電池車システム市場でトップシェアを持つ上海重塑能源科技有限公司 ( REFIRE/2017年当時に於いて広東省雲浮市に燃料電池システムで年間2万ユニットの生産拠点を確立させている )からの協力を得ています。
また車両全体を構成している電動アクスル、FCスタック、制御システム、エネルギーマネジメントシステムの設計・組立は、シェフラーのeモビリティ分野の専門技術者によるものです。このデモカーを介して我々シェフラーは、電動システム、燃料電池、リチウムイオン電池技術を高度にパッケージ化させられる技術水準を世界に対して示したと言えるでしょう。
なおこうした燃料電池による駆動スタイルの採用車は、今後、暫くは主に長距離走行トラック向けになると考えています。但し同じく長距離を走行する用途があるバンボディへの搭載も考えられるでしょう」と話している。
FCスタックを構成する金属製バイポーラプレートに独自性
一方、シェフラーで電動モビリティ事業部トップを務めるヨッヘン・シュレーダー博士は、「FCスタックを筆頭に多様な機能部品で構成されている燃料電池ユニットは、様々なコンポーネントによって成り立っていますが、その中でも、中核となるもののひとつがバイポーラプレート( 双極板 )です。
このプレートは1枚の厚さが僅か50から100ミクロンと極薄ですが、FCスタックの総重量の最大80%、体積にして最大65%を占める重要な構成部品です。
当社は、FCスタックの核心部で重要コンポーネントである金属製バイポーラプレートを2017年から開発しており、現在はドイツ・ヘルツォーゲンアウラッハにあるパイロット工場で生産しています。
燃料電池に特化した機能を持つソフトウェアモジュールの開発にも取り組む
バイポーラプレートの製造には、当社が保有する精密成形やプレス加工をベースとした冷間成形や加工、溶接、表面加工、最新鋭のコーティング技術などを駆使して、高効率で高性能なバイポーラプレートを製造しており、我々の幅広い知識と経験が活かされています。
と言うのは前述のバイポーラプレートのように極薄鋼板製部品の成型やコーティング処理は、モータやトランスミッションコンポーネントの製造で長年積み上げてきたシェフラーの技術力がまさに発揮される分野だからです。
また当社が持つ軸受に関わる豊富な技術ノウハウも、燃料電池の空気供給システムで使用される様々な空気軸受や、水素再循環用ノズル、更には統合型クーラントマネージメントを支えるサーマルマネージメントモジュールや、スマートバルブなどのコンポーネント開発に活かされています。
シェフラーは、今発表のデモカーを燃料電池搭載車の開発プラットフォームとして利活用し、今後も様々なシステムコンポーネントの相互作用を試験・実証・最適化を行って行きます。システム制御についても、燃料電池に特化した機能を持つソフトウェアモジュールの開発に取り組むなど、更なる技術力の向上に継続的に続けていく予定です」と語った。
ミシュラン傘下のシンビオと連携する合弁会社「イノプレート」も設立済み
ここまでに於いてシェフラーの首脳陣が語っている様に、燃料電池パワートレイン普及の鍵となるのは、コンポーネントやサブシステムの製造コストの大幅な低減にある。そうした意味でシェフラーは、これら製品の量産化を経営戦略の中核に据えて取り組んで来たのは間違いない。
実際に同社は、ミシュランの水素関連事業合弁会社であるシンビオと提携して合弁会社「イノプレート」を設立、2024年初頭よりバイポーラプレートの量産を開始する計画を精力的に進めている。
ここで生産されるプレートは、モビリティ用途の他、定置アプリケーション向けの出荷も想定。第一工場をフランス・アグノーに構えた初年度の生産量は年間400万枚を予定、これを2030年までに5,000万枚にまで引き上げる計画を打ち出している。
今後はFCスタックの生産数を確保し経済効果を高める事に取り組む
またシェフラーは、バイポーラプレート量産化についての実現可能性を見極めるべく、ドイツ・ヘルツォーゲンアウラッハに新設した「水素技術センターオブエクセレンス( 中核研究施設 )」の敷地内へ2022年初めにバイポーラプレート量産に向けたパイロット工場を設立。同工場は、最大1800×600mmの大型プレートの生産にも対応可能な設備を完備させた。
なお同拠点は水電解装置と燃料電池をコンポーネント、スタック、システムの各レベルで試験が行える大型設備も備えており、同社によると工程設計は、シェフラーの特殊機械部門との協力で行われ、全工程で自動化が図られたとしている。
同社のこの拠点について先のヨッヘン・シュレーダー博士は、「今回のようにシェフラーとシンビオが密接に提携していく意義は、絶対的な生産数を確保し燃料電池産業に係る経済効果を高めていく事にあります。これこそがFCスタックの製造コストを低減させる重要な条件となるからです」と結んでいる。