商用利用できるソフトウェアを備えたすぐに使えるプラットフォーム
ルネサス エレクトロニクスは6月20日、次世代のソフトウェア定義車両(SDV)を開発するためのプラットフォーム「R-Car Open Access(RoX)」の提供を開始した。
このRoXプラットフォームは、ルネサスの車載用SoC(System on Chip)とマイコン向けの開発プラットフォームであり、ADAS(先進運転支援システム)、IVI(車載インフォテインメント)、ゲートウェイアプリケーションに共通して利用できるもの。
ハードウェア、OS、ソフトウェア、AIアプリケーションをシームレスに繋ぐクラウドAI開発環境を包括した各種ツールなど、SDV開発に必要な殆どの基本レイヤを統合した。これにより、SDV設計の複雑さを大幅に軽減し、開発期間とコストを大幅に削減させられる。
この車載技術の大きな前進となるSDVの登場によって、自動車はこれまで以上に自律性の向上、電動化、コネクテッド化に向けて加速する。しかし一方で自律性と安全性を両立するためには、機能安全レベルASIL Dに対応するセンシング、処理、制御によって、360度の周辺空間を認識する必要がある。
またRoXプラットフォームによって、ドライバと同乗者の車室内での体験も革新される。その結果、最新のE/E(電気/電子)アーキテクチャは、車両を制御するにも、異なるゾーンのECU間でリアルタイムにデータをやりとりするにも、車両の差異化を図るにも、ソフトウェアがその役割を担う。
それだけに、これらの複雑なソフトウェア群を最高水準の安全性を確保しながら、維持およびアップグレードすることは益々困難になっていく。そうしたなか、ルネサスのカスタマイズ可能なソリューションは、クラウド上の開発環境やシミュレータを提供し、ソフトウェアファーストのアプローチと、ハードウェアとソフトウェアの並列開発をサポートできるため、これらの課題を解決できる。
なお、このRoXプラットフォームは2つのバージョンで提供される。「RoX Whitebox」は、オープンで簡単にアクセスできるソフトウェアパッケージであり、Android Automotive OS、FreeRTOS、Linux、Xen、Zephyr RTOS などロイヤリティフリーの OSおよびハイパーバイザと、アプリケーション別に用意したリファレンスソフトウェアが含まれる。
もうひとつの「RoX Licensed」は量産車にも使えるよう、QNXやRed Hat In-Vehicle Operating Systemなどの業界で実績ある商用ソフトウェア、およびAUTOSAR準拠のソフトウェアとSAFERTOS®をベースとしている。
これらはルネサスのR-Car SoCやマイコン上で動作するよう事前にテストされており、加えて、ADAS(先進運転支援システム)向けのSTRADVISIONの事前検証済みソフトウェアスタックや、 IVI(車載インフォテインメント)向けのCandera CGI Studioも利用可能。これらのソフトウェアは、ニーズに応じて柔軟にカスタマイズしたり拡張して、量産車に適用できるものだ。
そんなRoX SDVプラットフォームでは、仮想開発環境(VPF)により、ユーザはハードウェアのサンプルを入手する前からソフトウェアの開発を開始することができる。
開発したソフトウェアは、シミュレータやデバッグツールにより動作検証を行ってから、実際のSoCやマイコンに実装できのだ。高速シミュレータなどルネサスのツールだけでなく、ASTCのVLAB VDMやシノプシスのVirtualizer Development Kit(VDK)などパートナ企業のツールや開発環境により、シミュレーション速度や機能、ユースケースに幅広く対応する。
いずれもシームレスなエンドツーエンドのAI開発のために、RoXはAI Workbenchも提供する。これにより、開発者はクラウド上でモデルを検証、最適化し、仮想開発環境またはルネサスのボードファーム上でAIアプリケーションをテストできる。
様々なコンピューティングIPを搭載するR-Carで、世代を超えてAIの迅速な展開をサポートするために、幅広いAIモデル、自動化されたパイプライン、およびハイブリッドコンパイラ (HyCo)が利用できる。
またRoX SDVプラットフォームは、AI Workbench開発環境の一部としてアマゾン ウェブ サービス(AWS)のクラウドコンピューティングサービスをサポートしている。
ルネサスR-Car SDK(ソフトウェア開発キット)はAWSクラウド環境でコンテナ化されており、開発者は効率的に設計を革新し最適化できる。この緊密な統合により、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせを即座にシミュレートしてテストし、R-Carデバイス上でシームレスに実行されるAIアプリケーションを展開できる。
RoX SDVプラットフォームは、現行世代のR-Car SoC、今後の第5世代R-Car MCU/SoCファミリ(R-Car Gen 5)、および将来のデバイス向けに設計されている。
ADAS、IVI、ゲートウェイシステムだけでなく、クロスドメインシステム、ボディ制御、ドメイン制御、ゾーン制御など、OEMやTier1企業に向けて幅広いスケーラブルなコンピューティングシステムを設計できるよう柔軟性を提供する。
ルネサスのR-Car Gen 5は、ゾーンECUからハイエンドの中央コンピュートまで、エントリレベルの車両から高級車までの幅広い処理要件をサポートできるハードウェアアーキテクチャだ。
Arm® CPUコアをベースにした新しい統一ハードウェアアーキテクチャにより、R-Car Gen 5デバイスで開発するユーザは、車種や世代を超えて多様なE/Eアプリケーションで同じソフトウェアとツールを再利用できるため、開発投資を効率化できる。
またルネサスのハイパフォーマンスSoC製品は、アプリケーション処理、大型ディスプレイ機能、センサ接続、GPU、AI処理など、単一の機能および複数のアプリケーションにも利用できる。
ルネサスの執行役員兼ハイパフォーマンスコンピューティング担当ゼネラルマネージャであるVivek Bhan氏は、「RoXは、ソフトウェア定義車両のシフトレフトアプローチを加速する重要な進歩です。
現在、自動車OEMやTier1企業は、ソフトウェア開発と保守に大きく投資しています。ルネサスはこの課題を理解し、車両のライフサイクルを通じて維持できる、すぐに展開できる開発ソリューションを提供するために、密接に協力しています。
RoXプラットフォームは、お客様に新たな価値を提供し、ドライバと同乗者に向けたより高い安全性と快適な体験をもたらす車両の設計を可能にします」と述べた。
またAWSの自動車&製造部門テクノロジー戦略ディレクターのAndrea Ketzer氏は、「AWSは、お客様やパートナーが開発を加速させ、これまで以上に早くイノベーションをドライバーに届けるための支援をしています。
ルネサスエレクトロニクスのR-Car Gen 5デバイスが、AWS上のAI Workbenchでサポートされることで、お客様はよりスピーディーに検証されたシミュレーションとハードウェアに依存しない開発が可能になります。
この開発における飛躍的な変化は、業界を前進させ、ソフトウェアのイノベーションをモビリティの最前線に位置づけることになると期待しています」と語っている。
更にResearch担当Executive DirectorであるAsif Anwar氏は、「オペレーティングシステム、ハイパーバイザ、その他の機能ソフトウェアスタックを組み込んだ複雑なソフトウェアスタックを保守し、アップグレードできることは、サプライチェーンにとってますます重要な要素になります。
ルネサスのRoX SDVプラットフォームは、ハードウェアの開発とテストに対し、ソフトウェアファーストのアプローチをサポートするクラウドネイティブな環境を提供できるため、これらの要素を包含するエコシステムをすぐに構築でき、この大規模な市場に対応する次世代R-Car Gen 5プロセッサのスケーラブルなポートフォリオをサポートするでしょう」と説明した。
またTechInsightsによると、ドメイン、ゾーン、集中型アーキテクチャへ市場がシフトすることにより、SoCやマイコンなどのプロセッサ市場の拡大につながり、その市場規模は2031年までに259億ドルに達する見込みだと想定されている。
RoX SDV プラットフォームの主なパートナー
OS/ハイパーバイザパートナ
– QNX
– Red Hat
– Vector AUTOSAR
– WITTENSTEIN SAFERTOS®
ソフトウェアスタックパートナー
– Candera CGI Studio
– EPAM AosEdge
– Excelfore eSync
– MM Solutions
– STRADVISION SVNet
– Nullmax
開発ツールパートナー
– ASTC VLAB Works
– Synopsys Virtualizer Development Kit(VDK)
クラウドパートナー
– AWS
– Microsoft Azure
RoX SDVプラットフォームの各ソフトウェアやツールは、ルネサスまたはパートナ企業を通じて同日より順次利用可能。詳細は同URLを閲覧されたい。
第5世代R-Carに関しては、同URLのブログを閲覧されたい。