パナソニックがこの10月から大阪府門真市の本社エリア内で自動運転のライドシェアサービスを開始した。これは同社が進めるモビリティ事業戦略の一環で、2021年には本格的に自動運転車の運行サービスを開始する計画だ。パナソニックは今、モノを売るだけのハードの会社から大きな転換を図ろうとしている。(経済ジャーナリスト・山田清志)
社長直轄のモビリティ事業戦略室がサービスを担当
パナソニック本社は敷地面積が46万84平方メートルと広大で、そこに約1万4200人の従業員が働く。敷地内には本社ビルのほか、研究棟など数多くの建物が並び、従業員はこれまで長い移動を余儀なくされてきた。
今回のライドシェアサービスは本社をはじめ駐車場、研究棟などを回る、1周2.4kmのコースで所要時間は約21分。従業員は専用アプリやウェブサイトから予約して利用する。車両は電動カートを改造した4人乗りで、カメラやLiDARなどの装備を搭載している。平日の9時20分~16時30分の間、毎日運行し、4台が約10分間隔で40往復する。
これまで約7000kmのテスト走行を行ってきたが、最初のうちは保安員が常に1人乗車し、いざというときには手動運転に切り替える。車両は事前に作製された高精度地図とGPAによる位置情報を基に決められたルートを自動走行するが、車両は敷地内にある遠隔管制センターでされている。車両が障害物などで動けなくなった場合は管制センターから遠隔制御する。
パナソニックはこのライドシェアサービスを実現するために、3つのコアシステムを開発した。その3つとは「人に優しい自律走行システム」「安心遠隔監視・操作システム」「かんたん運行管理システム」で、どれもこれまで培って技術を活かしたものだ。例えば、遠隔監視・操作システムは、TV会議システム「HDコム」に使われている通信帯域推定技術による安定AV伝送と、車載セキュリティ技術を適応し、自動運転に不可欠な遠隔監視・遠隔制御を実現した。
サービスを担当するのは、1月に新設したモビリティ事業戦略室で、社内カンパニーであるオートモーティブ社とは別組織になり、社長直轄の組織だ。モビリティ領域でサービスを基軸にした新たなビジネスモデルの創出が目的で、ものづくりのハードが中心で赤字のオートモーティブ社の事業と分けたほうがいいと考えたわけだ。
サービスや保険などトータルで収益を確保
「モビリティの領域は『CASE』と言われるテクノロジーの変化で、100年に一度の変革が起こると言われている。これが、街や人々の暮らし方を変えるのは間違いなく、パナソニックにとって大きなチャンスでもある。そのチャンスの主体的に向き合うためにモビリティ事業戦略室ができた」とモビリティソリューションズ担当参与の村瀬恭通氏は説明し、こう付け加える。
「現在、移動の自由を手に入れ、便利になった一方、乗り物が溢れ、大気汚染や渋滞、交通事故などの社会課題も発生している。また、移動格差も起こり、交通弱者も出現した。本来、人のスペースであった道も自動車が幅をきかせている。この車中心の社会から人中心の社会へ変えていきたい。そのために新しいモビリティの在り方を探求する」
そこでパナソニックは現在、人の生活圏にフォーカスしたモビリティソリューションを通じて、“人”を元気に、“コミュニティ”を元気にすることを目指す「ラスト10マイル」という取り組みを推進している。事実、神奈川県横浜市や藤沢市では、スマートシティプロジェクト「サスティナブル・スマートタウン(SST)」の名のもと、クルマではなく人が中心となった街の実現を目指している。その大きなカギを握ると言われているのが新しいモビリティなのだ。
本社エリア内で開始した自動運転のライドシェアサービスは、そのラスト10マイル実現のための第一歩というわけだ。パナソニックでは、大阪府吹田市で開発が進められているSSTや、2025年に開催される大阪万博などもモビリティサービスを実装するチャンスとして狙っている。もちろん海外展開も視野に入っており、規制の少ない海外でのサービス実装が先行する可能性もあるという。
「コミュニティごとに、ラスト10マイルに必要な車体の形は違う。今回の車両でよければわれわれはつくるかもしれないが、他社から調達することも考えている。ハードにはこだわらない。収益もハードを売って回収するのではなく、その地域に適したサービスや保険などトータルで考えていく。1km当たりいくら、1カ月当たりいくら、というような収益が続くビジネスにしていきたい」と村瀬氏は話していた。