パナソニックは7月15日、研究開発戦略についてのオンライン説明会を開催した。その中でCTOとCMOを務める宮部義幸専務執行役員は、「くらしと世界をアップデート」というビジョンを掲げ、主に「モビリティ」「ホーム」「ビジネス」の3つの領域で変化を支える技術開発を進めていることを強調した。(経済ジャーナリスト・山田清志)
今こそ生きる創業者・松下幸之助氏の言葉
「パナソニックは、ソサエティ3.0と言われる工業社会の時代に大きな成長を遂げてきた会社だ。超スマート社会と言われるソサエティ5.0は、サイバーとフィジカルが融合した時代であり、ソサエティ4.0の情報社会とソサエティ3.0の工業社会が融合する世界とも言える。これからのパナソニックは、ソサエティ5.0で貢献していく会社になる」
こう話す宮部専務は、「困難こそ発展の好機」という創業者の松下幸之助氏が1958年の経営方針発表会で言った言葉を引用した。その時、松下氏は「松下電器の過去においては、困難に直面したときに必ず何ものかを生み出してきているのであります。この考えにたてば、かつてない難局であれば、それは同時にかつてない発展の基礎となるということを感得することができるわけで、こういうことを、みなさんの本年の基本的な考えにしていただきたいと思うのであります」と述べた。
「この言葉はそっくりそのまま今の状況に当てはまる。困難な状況だからこそ必要になるものに目を向け、新しいパナソニックの価値を創り出していく好機だと考えることが大事だ」と宮部専務は訴える。
パナソニックは100周年を迎えて2018年度に従来の「家電の会社」から「くらしアップデートの会社」へと変革する方針を打ち出した。つまり、ただものをつくって売る会社からものとサービスなどソフトウェアを絡めて稼ぐ会社への変身を目指した。しかし、その変革はまだうまくいっていないようだ。
それは業績を見れば一目瞭然だ。2019年度の連結業績は、新型コロナウイルスの感染拡大も響き、売上高が7兆4906億円(前期比6.4%減)、営業利益が2938億円(同28.6%減)、当期純利益が2257億円(同20.6%)と減収大幅減益だった。売上高営業利益率も3.9%で、ライバルのソニー(10%)に大きく差をつけられてしまった。時価総額はパナソニックが2.3兆円に対し、ソニーは9.9兆円だ。
その違いはソニーがリーマンショック後、モノ売りからサービスも付与したリカーリング(継続課金)型の収益モデルを構築したのに対し、パナソニックはモノ売り依存からなかなか脱却できなかったところにある。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が続く今、新しい価値を生み出すチャンスと捉えているわけだ。
さまざまな技術を組み合わせて製品をアップデート
「キーデバイスや製造、エネルギーといったものをベースに、AIやIoT、ビッグデータ、センシングテクノロジー、ロボティクスといった技術を組み合わせて、これをデジタライゼーションやネットワークにつなぐことで、モビリティ、ホーム、ビジネスという事業領域において、くらしと世界をアップデートしていくことになる」と宮部専務は説明する。
例えばモビリティ領域では、自動運転やそれに伴うソリューションを目指し、障害物検知をはじめ人状態認識、外観認識、配車システムなどを開発していく。また、電動化の分野では、次世代パワーデバイス、リチウムイオンバッテリーシステム、非接触給電システムなどの開発を進めていく。
また、ホーム領域では、顔認証システムや顔決済セルフレジ、不審者検知システム、暗いデータ分析、感情推定などの技術開発を行っていく。そして、ビジネス領域では、無人サービスロボットや無人配送システム、自動棚卸・補充、自律移動ロボットや物流・搬送ロボットなどを開発していく。
研究開発体制も変更した。従来はデジタル系技術と材料、デバイス系技術を開発する本部は別だったが、「テクノロジー本部」として1つにまとめた。そのほか、生産技術を担う「マニュファクチャリングイノベーション本部」をイノベーション推進部門内に組み込んだ。デザイン部門についても「デザイン本部」に格上げし、技術とデザインで連携した動きができるようにした。
「やりたいことは大きく2つだ。1つはすべての人に対する最高ではなく、一人ひとりに対して最高の価値提供を行えるようにすること。もう1つが製品を販売したときが最も製品価値が高く、その後は価値が下がっていくだけというのではなく、買った後も製品価値を高めることができるようアップデートしていくことだ」と宮部専務は強調し、こう付け加える。
「パナソニックはこれまで何度もサービスに取り組んできたが、ハードウェア事業と同じ経営管理指標でやってきたためうまくいかなかった。また、家電製品にしてもネットサービスに対応するためには、ソフトウェア基軸でハードウェアの設計をしていく必要がある。そのためにはソフトウェアもハードウェアも構造を変えていく必要がある」
今回の新型コロナはこれまで当たり前だったものを変えるチャンスと宮部専務はとらえており、パナソニックの研究開発はこれから大きく変わっていきそうだ。