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2020年7月15日【エネルギー】

パナソニックの研究開発戦略、困難こそ発展の好機

山田清志

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 パナソニックは7月15日、研究開発戦略についてのオンライン説明会を開催した。その中でCTOとCMOを務める宮部義幸専務執行役員は、「くらしと世界をアップデート」というビジョンを掲げ、主に「モビリティ」「ホーム」「ビジネス」の3つの領域で変化を支える技術開発を進めていることを強調した。(経済ジャーナリスト・山田清志)

 

今こそ生きる創業者・松下幸之助氏の言葉

 

「パナソニックは、ソサエティ3.0と言われる工業社会の時代に大きな成長を遂げてきた会社だ。超スマート社会と言われるソサエティ5.0は、サイバーとフィジカルが融合した時代であり、ソサエティ4.0の情報社会とソサエティ3.0の工業社会が融合する世界とも言える。これからのパナソニックは、ソサエティ5.0で貢献していく会社になる」

 

 

こう話す宮部専務は、「困難こそ発展の好機」という創業者の松下幸之助氏が1958年の経営方針発表会で言った言葉を引用した。その時、松下氏は「松下電器の過去においては、困難に直面したときに必ず何ものかを生み出してきているのであります。この考えにたてば、かつてない難局であれば、それは同時にかつてない発展の基礎となるということを感得することができるわけで、こういうことを、みなさんの本年の基本的な考えにしていただきたいと思うのであります」と述べた。

 

「この言葉はそっくりそのまま今の状況に当てはまる。困難な状況だからこそ必要になるものに目を向け、新しいパナソニックの価値を創り出していく好機だと考えることが大事だ」と宮部専務は訴える。

 

パナソニックは100周年を迎えて2018年度に従来の「家電の会社」から「くらしアップデートの会社」へと変革する方針を打ち出した。つまり、ただものをつくって売る会社からものとサービスなどソフトウェアを絡めて稼ぐ会社への変身を目指した。しかし、その変革はまだうまくいっていないようだ。

 

 

それは業績を見れば一目瞭然だ。2019年度の連結業績は、新型コロナウイルスの感染拡大も響き、売上高が7兆4906億円(前期比6.4%減)、営業利益が2938億円(同28.6%減)、当期純利益が2257億円(同20.6%)と減収大幅減益だった。売上高営業利益率も3.9%で、ライバルのソニー(10%)に大きく差をつけられてしまった。時価総額はパナソニックが2.3兆円に対し、ソニーは9.9兆円だ。

 

その違いはソニーがリーマンショック後、モノ売りからサービスも付与したリカーリング(継続課金)型の収益モデルを構築したのに対し、パナソニックはモノ売り依存からなかなか脱却できなかったところにある。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が続く今、新しい価値を生み出すチャンスと捉えているわけだ。

 

さまざまな技術を組み合わせて製品をアップデート

 

「キーデバイスや製造、エネルギーといったものをベースに、AIやIoT、ビッグデータ、センシングテクノロジー、ロボティクスといった技術を組み合わせて、これをデジタライゼーションやネットワークにつなぐことで、モビリティ、ホーム、ビジネスという事業領域において、くらしと世界をアップデートしていくことになる」と宮部専務は説明する。

 

例えばモビリティ領域では、自動運転やそれに伴うソリューションを目指し、障害物検知をはじめ人状態認識、外観認識、配車システムなどを開発していく。また、電動化の分野では、次世代パワーデバイス、リチウムイオンバッテリーシステム、非接触給電システムなどの開発を進めていく。

 

 

また、ホーム領域では、顔認証システムや顔決済セルフレジ、不審者検知システム、暗いデータ分析、感情推定などの技術開発を行っていく。そして、ビジネス領域では、無人サービスロボットや無人配送システム、自動棚卸・補充、自律移動ロボットや物流・搬送ロボットなどを開発していく。

 

研究開発体制も変更した。従来はデジタル系技術と材料、デバイス系技術を開発する本部は別だったが、「テクノロジー本部」として1つにまとめた。そのほか、生産技術を担う「マニュファクチャリングイノベーション本部」をイノベーション推進部門内に組み込んだ。デザイン部門についても「デザイン本部」に格上げし、技術とデザインで連携した動きができるようにした。

 

 

「やりたいことは大きく2つだ。1つはすべての人に対する最高ではなく、一人ひとりに対して最高の価値提供を行えるようにすること。もう1つが製品を販売したときが最も製品価値が高く、その後は価値が下がっていくだけというのではなく、買った後も製品価値を高めることができるようアップデートしていくことだ」と宮部専務は強調し、こう付け加える。

 

「パナソニックはこれまで何度もサービスに取り組んできたが、ハードウェア事業と同じ経営管理指標でやってきたためうまくいかなかった。また、家電製品にしてもネットサービスに対応するためには、ソフトウェア基軸でハードウェアの設計をしていく必要がある。そのためにはソフトウェアもハードウェアも構造を変えていく必要がある」

 

今回の新型コロナはこれまで当たり前だったものを変えるチャンスと宮部専務はとらえており、パナソニックの研究開発はこれから大きく変わっていきそうだ。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。