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2021年4月23日【企業・経営】

パナソニックが米IT企業を7700億円で買収した狙い

山田清志

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会見風景

 

パナソニックは4月23日、米IT企業のブルーヨンダーを買収すると発表した。ブルーヨンダーは世界トップクラスのサプライチェーン・ソフトウェア会社で、買収金額は71億ドル(約7700億円)だ。電機業界では、日立製作所が3月31日に米IT企業のグローバルロジックを約1兆円で買収すると発表しており、1カ月で2つ目の大型買収となる。製造業でもソフトウェアを重視しなければ生き残れない時代に入ったようだ。(経済ジャーナリスト・山田清志)

 

パナソニックの楠見雄規CEO

 

現場プロセス事業を強化するには不可欠な会社

 

「今回のブルーヨンダーの100%子会社化は、CNS(コネクティッドソリューションズ社)の攻めるべき領域である現場プロセス事業を徹底的に強化するためにはどうしても必要であると考えたからだ。つまり今回の買収は、単にブルーヨンダーが将来的にも成長性が見込め、収益性、安定性が高いリカーリングビジネスを有していることだけでなく、将来CNSが現場プロセス事業を軸にサプライチェーン全体で革命的なソリューションを生み出していくうえで不可欠なピースであるのだ」

 

4月1日からパナソニックの舵取りを任された楠見雄規CEOは、ブルーヨンダーの買収についてこう説明し、「パナソニック自身のデジタルトランスフォーメーション(DX)を促進することで、現場力、オペレーション力を強化する狙いも含まれている」と強調した。

 

ブルーヨンダーは製品の需要や納期を予測するソフトを主力に、顧客企業のサプライチェーンを見直し、収益改善につなげるSaaS事業を展開する。顧客数は世界で3000社にのぼり、主な顧客には米コカコーラやスターバックス、ウォルマート、英ユニリーバ、独メルセデスベンツなどが含まれる。世界の小売業者上位100社のうち65社、製造業の上位100社のうち48社で使用されているという。

 

売上高は2020年度10億ドル(約1080億円)で、売上高に対するEBITDA比率が約24%を誇る高収益企業だ。しかもリカーリング比率が67%と高い。抱えている関連特許も400以上にのぼり、同業他社に比べて格段に多い。

 

パナソニックは20年7月に8億ドル(約860億円)でブルーヨンダーの株式20%を取得した。その後、取締役の派遣をはじめ、ブルーヨンダーのソリューションを自社導入、さらに両社による共同マーケティング展開など、2社間の戦略的パートナーシップを加速してきた。

 

パナソニックの樋口泰行専務執行役員(コネクティッドソリューションズ社社長)

 

オートノマスサプライチェーンの実現を

 

そこで分かったのは、監視カメラなどデータを取得できるセンサー機器に強みを持つパナソニックと、人工知能(AI)を活用した予測ソフトを手がけるブルーヨンダーとの連携が進めば、さらに成長できる可能性が大きいということだ。最初は乗り気でなかった楠見CEOも、その成果を見るにしたがって一気に株式の100%取得に傾いたそうだ。

 

「今回の買収によって、あらゆるサプライチェーンの現場から自律的にムダや滞留が省かれ、かつそのムダや滞留が継続的になくなっていくことが実現できると思う。現状はサプライチェーンを構成する現場にはまだまだムダとか滞留が残されていることも多いが、徹底的な削減を通じて、現場を抱えるお客さまの経営改革に貢献していく。そのことは結果として、エネルギーの削減をはじめ、環境課題の解決にも貢献できると考えている」と楠見CEOは説明し、こう付け加える。

 

「輸送の削減、欠品・過剰在庫の撲滅、納期遵守率の向上など、効率的かつ資源を浪費しない環境負荷の低いサプライチェーンの実現に大きな貢献を果たすことができるという確信に至った」

 

文字通り、パナソニックとブルーヨンダーの技術が融合すれば、オートノマスサプライチェーンが実現できるというわけだ。まずはパナソニックのさまざまな現場で先行的に実証実験を行い、その中でソリューションを磨き上げていくそうだ。そしてその結果を踏まえて、顧客に提供していく予定だ。

 

現場プロセスイノベーションの進化

 

過去のM&Aの失敗を活かすことができるか

 

しかも、パナソニックは現在、「モノ」を売り切るビジネスから継続的に収益を得られるリカーリングビジネスに力を入れている。しかし、なかなか思うように行っていないのが実情だ。ブルーヨンダーのリカーリング比率は67%と高く、パナソニックがブルーヨンダーを取り込めば一気にリカーリングビジネスを加速できるわけだ。

 

ただ、パナソニックにはM&Aを行って相乗効果を生み出せなかった過去がある。例えば、1991年に行った米映画大手MCA(現NBCユニバーサル)の買収だ。映画コンテンツなどのソフトを取り込めば、テレビやビデオなどAV機器事業が伸ばせると考えて、当時としては最大額の約7800億円を投じた。しかし、うまくいかず、95年にカナダ飲料大手へ売却してしまった。

 

オートノマスサプライチェーン

 

そのほか、93年に松下電子工業、2004年に松下電工、09年に三洋電機を子会社化したが、パナソニックの売上高が30年前とほとんど変わらないので、子会社化によって相乗効果があったとは考えづらい。

 

質疑応答でも、そのあたりについての質問が飛んだ。それについて、CNS社長の樋口泰行専務執行役員は「ブルーヨンダーがパナソニックの傘下に入ったことによって、その経営のスピード感が下がったり、経営がまずくなったりすることが絶対にないように取り組まなければいけない」と話し、こう強調した。

 

「ブルーヨンダーの本社はアリゾナ州にあるが、そこで自分自身の時間の半分ぐらいを過ごすつもりだ。パナソニックのインターナショナルの起点として、そこを軸にパナソニックのソリューションを取り込んでいく。間違ってもパナソニックのハードウェアを売るために、ブルーヨンダーの考え方を変えることはしない」

 

楠見CEOは「サプライチェーンに革命を起こす」と豪語するが、これまでのM&Aの失敗を活かすことができなければ、7700億円の資金がムダになりかねない。それどころかパナソニックの将来も危うくなるだろう。もう失敗は許されない。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。