片倉達夫上席副社長
パナソニックは7月19日、今後の主力事業と位置づけている「現場プロセスイノベーション」事業についてのオンライン記者会見を開き、その国内戦略と新ソリューションを発表した。製造や物流、流通分野のサプライチェーンマネジメントに最適化ソリューションを提供することによって、同事業のリカーリング比率を2021年度の売上高20%、利益40%から30年度には売上高30%、利益60%に引き上げる計画だ。(経済ジャーナリスト・山田清志)
現場プロセスイノベーション
自社の倉庫で大きな成果
同社はサプライチェーンの領域において、画像認識、センシングと通じて現場の人やものの動きを捉え、それをデジタルデータに変換し、サイバー空間で分析、その結果をフィードバックすることで、現場の課題を解決し、効果を上げている。
例えば、大阪府茨木市にある彩都パーツセンターでは、8万品番以上の部品を在庫として保管し、1カ月あたり2万6000件の部品出荷を行っているが、インダストリアルエンジニアリング(IE)をもとにしたデジタルトランスフォーメーション(DX)による現場プロセスイノベーションによって、2017~2019年の3年間平均でピッキング工数を年率25%削減し、10.8%のコスト削減を実現、分析工数の削減は2016年の600分から15分に短縮できたという。
また、子会社のパナソニック物流電材厚木物流センターでも、自動化を含むピッキング業務の効率化などの現場プロセスイノベーションによって、人作業によるピッキングに比べて1.5倍の生産成功をと達成し、棚卸工数も10%削減することができた。
人員体制の強化
そうした実績を踏まえ、パナソニックは2018年から現場プロセスイノベーション事業を開始。すぐにヤマト運輸にコンサルティングを含めたソリューションを提供し、目に見える成果が出ていると高い評価を得ているそうだ。現在、数十社のプロジェクトが稼働中だ。
SaaS型の業務アプリケーションを新たに提供
同日記者会見したパナソニック コネクティッドソリューションズ社の片倉達夫上席副社長は「新型コロナウイルス感染症の拡大によって、需要の急激な変化が起こり、部品の調達が間に合わないなど国内外でサプライチェーンが混乱しており、その対応にDXに取り組む企業が増えている」と指摘し、こう付け加える。
「日本企業で起きるDXの課題は、現場の暗黙知がたくさんあり、誰にでも分かる業務プロセスに落とし込めていないこと。また、業務が個別最適化されて、ノウハウの共有がされておらず、人の経験に依存していることなど、現場の業務プロセスが定義できていなく、可視化していないことに起因する」
物流における現場最適化ソリューション
それに対して、パナソニックには、これらの課題を解決し、業務プロセスを定義し、誰がやっても同じ結果を生み出せるようにサポートできるノウハウがあるという。それが今力を入れている現場プロセスイノベーションのソリューションというわけだ。
そして同日、現場プロセスイノベーションのSaaS型業務アプリケーション群「現場最適化ソリューション」を発表した。このソリューションは、画像認識やセンシング技術を基に現場の情報をIEに即してデータ化する「可視化アプリケーション群」と、IEの値源とノウハウを生かして業務プロセスの最適化を図る「最適化ソリューション群」から構成されている。
物流分野向けでは、可視化アプリケーション群として「AI画像処理作業可視化」「在庫可視化」「動線分析」「配送見える化」の4つ、最適化ソリューション群として「シフト最適化」「庫内最適化」「輸配送最適化」の3つ、計7つを提供する。
流通における現場最適化ソリューション
一方、流通分野向けでは、可視化アプリケーション群として「AI画像処理作業可視化」「在庫可視化」「動線分析」「来店客可視化」「棚可視化」の5つ、最適ソリューション群として「シフト最適化」「在庫最適化」「配送最適化」の3つ、計8つを提供する。
オートノーマスサプライチェーンの実現を
また、人員体制についても、470人から約3000人にまで増強し、リカーリングビジネスの比率を売上高で2021年の20%から30%に、利益で40%から60%に引き上げる計画だ。ただ、この目標数値には、100%子会社化するサプライチェーン管理ソフトウェア会社のブルーヨンダー分は入っていないとのことだ。
山中雅恵常務
「現場を最適にするには、上流の業務プロセスとの連携が不可欠。例えば、画像認識で店舗の棚を可視化し、欠品状況を把握して、POSデータとも連係させることで、需要予測の精度を向上でき最適な発注につなげられる。上流の業務プロセスの最適化を担うブルーヨンダーは最適なパートナーだ」とパナソニック コネクティッドソリューションズ社の山中雅恵常務は話し、リカーリング比率のさらなるアップを期待する。
今後は、パナソニックが製造業として長年培ってきたIEの技術とノウハウ、エッジデバイス、IoTに、ブルーヨンダーの機械学習を活用したソフトウェアプラットフォームを組み合わせることで、ますます複雑になっている需要・供給の変化をリアルタイムに把握し、「オートノーマスサプライチェーン」(自律的な現場)の実現を目指していくそうだ。