沖電気工業(OKI)と、OKIグループのプリンター事業会社である沖データ(OKIデータ)は、OKIデータのLED統括工場において、D-Wave社の提供する量子コンピューター(注1)を活用して製造ラインにおける半導体製造装置の最適配置を算出。作業員の移動距離を平均28%短縮する結果を得ることに成功した。
量子コンピューターは、従来のコンピューターに比べ圧倒的な計算能力を持つと期待され、世界中で開発が活発に行われている。この量子コンピューターを含む量子技術は、日本でも重要な基盤技術として位置づけられており、国をあげて研究開発を推進している。
このような中、2014年、カナダのD-Wave社は、量子アニーラ(注2)と呼ばれる組み合わせ最適化問題に特化した量子コンピューターの商用リモートアクセスサービスを、世界に先駆けて開始。
OKIは、量子コンピューター技術の有用性が幅広く認知され、当たり前のように社会実装される日が遠からず到来すると予想し、その応用技術の研究開発を行ってきたが、今回、確立した実用的な問題を解くための基礎的な計算技術を社内事例に適用して検証すべく、OKIデータLED統括工場の装置最適配置を行った。
OKIデータのLED統括工場では、製造工程の異なる複数の製品を、数十~数百台におよぶ多種類の半導体製造装置を共用し、装置間を作業員が移動して製造していることから、生産性向上のためには、装置の配置を最適化し、作業員の移動距離(以下、動線)をできるだけ短くする必要がある。
しかし、装置の台数および種類が多くなると、その組み合わせのパターン数は爆発的に増加。今回検討したケースでは、10の100乗を優に超えると云う。
また、装置の設置場所や重複する装置の選択方法など、複雑な制約条件の考慮も必要なことから、スーパーコンピューターのような高性能な従来型コンピューターを用いても、そのすべてを計算して最適な装置配置を算出することは、現実的には不可能だった。
しかし今回、OKIとOKIデータは、D-Wave社の提供する量子アニーラを用いてこの最適配置の算出に挑戦。
このテーマへの量子アニーラの適用は、研究的な視点では、算出した最適配置の効果を定量的に観測しやすいという利点もあるが、問題を効率的に解くためには、量子アニーラと製造現場の両者の制約条件に適した新しいアルゴリズムが必要。
このため、製造現場の実態を知悉したLED統括工場のメンバーも参加し、製造工程および製造数の異なる製品2種を同一工場内で製造するときの条件をモデル化し、計算アルゴリズムを独自設計することに成功。この新しいアルゴリズムを用いて量子アニーラにより最適な装置配置を計算したところ、従来の装置配置と比較して、平均28%の動線短縮を実現するという結果が得られた。
なおこの結果は、量子アニーラを実際の工場の装置の最適配置に適用した先進的な事例になると云う。
OKIおよびOKIデータは、今回の結果をさらに精緻化したうえで、LED統括工場の生産性向上に適用する予定。
OKIは、今後も量子コンピューターの実用化に取り組み、労働力不足に対応した生産性向上などの社会課題の解決に貢献していくとしている。
注1)量子コンピューター:量子力学的な状態(0と1の重ね合わせ)を情報処理の単位(量子ビット)として利用するコンピューターの総称。汎用的な演算が可能なゲート型と、組み合わせ最適化問題に特化したアニーリング型に分類できる。
注2)量子アニーラ(アニーリング型量子コンピューター):量子ビットの重ね合わせと量子ビット間の結合を利用し、最適な組み合わせを導くことに特化したコンピューター。