国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)は12月2日、ソフトバンクと共同で、エネルギー密度の高いリチウム空気電池のサイクル寿命が、電解液量と面積容量の比に支配されていることを明らかにした。
反応に使われる酸素に加えて、副反応に伴って生成される物質の定量的な測定法を開発し、電池反応全体での反応物、生成物の収支を精密に評価できるようになったことで、サイクル寿命の主要因の決定に成功したもの。今回の成果は、リチウム空気電池の実用化研究開発において重要な指針を与えると期待される。
リチウム空気電池は、理論エネルギー密度が現状のリチウムイオン電池の数倍に達する「究極の二次電池」であり、軽くて容量が大きいことから、ドローンや電気自動車、家庭用蓄電システムまで幅広い分野への応用が期待されている。2018年に設立されたNIMS-SoftBank先端技術開発センターでは、その特性を生かして携帯電話基地局やIoT、HAPS(High Altitude Platform Station)などに向けて実用化を目指した研究を行ってきた。
その中で、特にサイクル寿命を延ばすことが重要な課題だったが、従来は電極など個別の材料の評価が中心で、実際に高エネルギー密度なリチウム空気電池を作製してサイクル寿命を評価した例は限られていた。
さらに、正極活物質として利用する酸素や副反応に伴って生成される気体など、反応に関わる物質を定量的に測定する方法が限られていたため、反応全体での反応物の収支が分からないこと、サイクル寿命に影響を与える支配因子が明らかにされていないこと、これらがリチウム空気電池の実用化研究開発を進める上での大きな壁となっていた。
今回、研究チームは、反応に使用する酸素や、充放電に伴って発生する気体および揮発性物質を定量的に評価する手法を新規に開発し、リチウム空気電池内部の複雑な反応を精密に評価する手法を確立。さらに、本手法をNIMS-SoftBank先端技術開発センターで開発した実用的なリチウム空気電池に対して適用することで、電池のサイクル寿命が電解液量と面積容量の比で定義されるパラメータにより支配されることを初めて明らかにした。
電解液量を一定のまま面積容量を減らすと、サイクル寿命が延びることが分かった。その一方で、面積容量が減ると電池のエネルギー密度は下がってしまうため、実用的なリチウム空気電池の開発においては、「電解液量と面積容量の比」のパラメータを意識した電池設計、材料評価が重要であることを示している。
同研究で得られた知見をふまえ、リチウム空気電池内部の副反応抑制手法を確立することで、NIMS-SoftBank先端技術開発センターでのリチウム空気電池の早期実用化につながると考えられる。
なお、今回の研究成果は、日本時間2020年12月2日以降で、RSC Advances誌にオンライン掲載される予定。