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2020年8月7日【エネルギー】

筑波大学とNIMS、半導体用高純度シリコンの収率限界を突破

坂上 賢治

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研究で開発した水素ラジカル発生装置と反応炉の概念図

 

 NIMSと筑波大学は、従来は25%が限界といわれていた半導体用高純度シリコンを生成するシーメンス法のSi収率を向上させることに成功した。(坂上 賢治)

 

 シリコン (Si) はごくありふれた元素だが、コンピューターや太陽電池などに利用される重要な戦略物質でもある。特にシリコンに関してはエネルギー問題の解決に向け、2040年に世界の太陽光発電累積導入量推定が1TWを越えると見込まれていることに大きな関わりがある。というのは、これを実現するには108トン以上にも及ぶ高純度シリコンが必要となるからだ。

 

一方で一般に太陽電池にも用いられる純度の高い半導体級シリコンを作製するシーメンス法は、三塩化ケイ素(SiHCl3)を原料として水素ガスによる還元反応を利用してSiを生成する方法だ。しかし、シーメンス法が行われる大気圧、1200℃の環境下では、原料であるSiHCl3の熱分解が優先的に起こり、副生成物として化学的に安定な四塩化ケイ素 (SiCl4) が発生してしまう。つまりSi生成収率が25%と工業化学プロセスとして非常に低いことが課題となってくる。

 

そこで反応性の高い水素ラジカルを大気圧で発生・輸送できる装置を開発し、シリコン製造ラインに導入して副反応物の発生を抑えることで収率が15%以上向上させる試みに期待が集まる。また今後、コンピューターや太陽電池向けに需要が高まる高純度シリコン生成プロセスの改善や低コスト化にも有望だ。

 

 NIMSと筑波大学による今研究チームは、水素ラジカルを用いればSiCl4を生成させることなくSiを生成できること。また化学的に安定なSiCl4からもSiを生成できることを熱力学的に予測してきた。しかしながら反応性の高い水素ラジカルを大気圧で発生させ、その効果を検証する研究を行ってこなかった。

 

今回はタングステン熱フィラメントによって大気圧以上で水素ラジカルを発生させて、圧力差を利用して水素ラジカルを別の反応炉に輸送する装置を開発することで、反応性が高いにも関わらず、水素ラジカルは長寿命で大気圧でも数10cmの距離を輸送できることを確認できた。

 

そしてこの装置を用いて水素ラジカルによるシーメンス法の副生成物であるSiCl4の還元反応 (Si生成) を行ったところ、より低温で大気圧でもSiをより効率的 (現時点では15%) に生成することに成功した。

 

大量のSi材料を低コストで生産するためにも、Si収率の向上が見込める水素ラジカル発生装置の実用化が有望で今後、シーメンス炉に水素ラジカルを直接導入するだけなく、廃棄ガス処理プロセスに水素ラジカルを導入するなど、Si収率向上に向けたプロセスの開発を目指してく構えだ。

 

 なお同研究は、国立研究開発法人物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点次世代半導体グループ角谷正友 主席研究員と岡本裕二 研修生 (筑波大学大学院博士課程、現 出光興産株式会社) 、および国立大学法人筑波大学 数理物質系物質工学域 鈴木義和准教授の研究チームによって行われた。

 

研究の一部は 、JSPS特別研究員奨励費 (岡本 「水素ラジカル還元法による高純度シリコンの高効率作製プロセスの開発」DC2) 、JST地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム (サハラを起点とするソーラーブリーダー研究開発 鯉沼秀臣 代表 2010 – 2014) の一環として実施。研究成果は、2020年7月27日にScience and Technology for Advanced Material誌にてオンライン掲載されている。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。