イノベーションセンター外観図
村田製作所は12月15日、神奈川県横浜市みなとみらい21地区に研究開発拠点として、関東最大となる「みなとみらいイノベーションセンター」を開業したと発表した。近隣には日産自動車や富士ゼロックス、京浜急行電鉄、資生堂などのビルが林立する。村田製作所がこの地に研究開発拠点を開設したのにはさまざまな狙いがあった。(経済ジャーナリスト・山田清志)
村田製作所の車載ビジネスを紹介する展示室
新たな事業の創出を目指した施設
「今回、みなとみらいに進出することは、関東圏の一大開発拠点として事業を広げる大きなチャンスとして捉えている。このイノベーションセンターは、新たな事業の創出を目指した施設で、特に自動車、エネルギー、ヘルスケア・メディカルといった成長市場に注力するために設けたもので、協業などを通じて先進的な製品開発を行って行こうと考えている」
中島規巨社長は冒頭の挨拶でこう話し、「研究開発拠点が集中しているみなとみらいという地理的メリットを活かし、顧客や市場との接点強化を図りながら、新しいビジネスを生み出して事業の拡大を目指していく」と強調した。
車両のさまざまな実験を行うピット施設(完成予想図)
村田製作所といえば、1944年に京都でセラミックコンデンサーメーカーとしてスタートした名門企業で、現在では国内外の20カ国以上に90社以上を保有し、グループ全体で従業員が7万4000人、売上高1兆5300億円を誇る。電子部品メーカーとして、特に電子機器の小型化、高機能化には定評があり、スマートフォンの製造では村田製作所の電子部品がないと成り立たないとまで言われている。
しかし、技術者の採用では苦労しているという。「当社は京都ではよく知られている企業だが、東日本の一般の人にとってはほとんど無名に近い。採用の際も、勤務地が開発拠点のある野洲事業所(滋賀県)になると言うと、辞退する人も少なくなく、何度も痛い目を見てきた」と岩坪浩専務執行役員は話す。
このイノベーションセンターは、自動車やエネルギー分野で先進的な製品を生み出す以外にも、東日本の優秀な人材を獲得しようという狙いがあるのだ。それだけに、建物内には同社初のものや、技術者が働きやすいようにさまざまな工夫が施されているという。
ムラーボ内にあるレースのゲームをしながら科学を学べる装置
同社初の車載向け専用施設を設置
総工費400億円をかけたイノベーションセンターは、地上18階、地下2階で、延べ床面積が6万5335平方メートル。低層階はアクティビティフロアやコモンスペースとなっており、5階には来客応接ゾーンや社内外を問わずコラボレーションできる場を設けている。
地下には同社初の車載向け専用施設を設置。同社の車載ビジネスを紹介する展示室をはじめ、さまざまな実験を実施することができるピット施設、走行状態を再現しながら実験や検証を行うことができるシャシダイナモ付きの実車用大型電波暗室がある。
「アイデアが生まれたら、すぐに実証実験ができるようにした」とはみなとみらいイノベーションセンター事業所長の川平博一執行役員の弁だが、研究オフィスと実験・試作エリアを接して配置することで、発想やひらめきをすぐに実証できる環境をつくり、イノベーションの具体化のスピードアップを狙っているそうだ。
同社は2025年までに自動車ビジネスを大きな柱に育てようと考えている。というのも、CASE時代を迎え、自動車が電子部品の塊になりつつあり、同社の電子部品が多く使われるようになっているからだ。
若手技術者が自らレイアウトしたオフィスフロア
同社では、車両を細部にまで分解調査を行っており、同社の電子部品がどれくらい使われているか毎年のように確認しているそうだ。それによると、コンデンサーなど同社製電子部品が1台当たり1万個以上使われ、その数は年々増える傾向にあるという。
「自動運転やEVなど自動車の進化にはエレクトロニクス技術が欠かせない。ADASの高度化、CASE時代のクルマの進化に貢献していく」と中島社長は事あるごとに話しており、スマホの世界でそうなったように、クルマの世界でも先進的な電子部品を開発してなくてはならない存在になろうと考えている。
そこで働く若手技術者が自らフロアレイアウト
話を施設の説明に戻すと、2階に同社初の施設がもうひとつある。それは「ムラーボ」と呼ばれるもので、「エンジニアの卵が生まれるきっかけの場」をコンセプトにした子どもたちが科学を楽しく学べる体験型の施設だ。「DISCOVER(ディスカバー)」「HISTORY(ヒストリー)」「SIMBOL(シンボル)」「THINK(シンク)」の4つのゾーンに分かれている。
例えば、ディスカバーゾーンでは、専用の端末を首から提げて、クイズに答えたり、ゲームをしながらエレクトロニクスの仕組みが楽しく学べるようになっている。また、シンボルゾーンでは、電気に関するアートの展示やムラタのロボットのデモなどを行い、シンクゾーンでは、科学に関する本が200冊ほど展示され、併設したカフェの飲み物を飲みながらそれらの本を自由に見ることができる。
中層階は研究開発ゾーンで、技術陣が働くオフィスとなっている。しかも、それぞれのフロアはそこで働く20~30代の若手技術者が自らレイアウトし、自分たちが働きやすいようにしたそうだ。現在、330人が働いており、2021年8月には850人まで増え、最大1850人まで働くことができる。
(左から)みなとみらいイノベーションセンター事業所長の川平博一執行役員、中島規巨社長、岩坪浩専務執行役員
高層階は食堂、カフェ、研修室となっており、最上階のコンベンションルームは120人収容でき、異業種交流会や社内フォーラム、飲食を伴った親睦会など多目的に交流できる場として活用していく。
「この場所に集まるみんなのアイデアや情報を燃料に、文化・社会の発展のためのエンジンになる」を目標に、10年後も、20年後も、常に先進的な拠点として、社内外を問わず多様な人に「訪れたい」と思われるような仕組み・場づくりを実現し続けていくそうだ。