テュフ ラインランド ジャパンは8月1日から「モビリティ技術開発センター」を稼働する。今後急速にニーズが高まることが予想される車載用電子部品のEMC(電磁両立性)・ワイヤレス試験に対応するための自動車産業に特化した施設で、周辺に自動車産業が集積する愛知県知立市に開設された。(経済ジャーナリスト・山田清志)
CASEの試験から認証までワンストップで提供できる
「現在の自動車には、さまざまな機能を電子回路で制御するECUが多く搭載されており、今後コネクティッド、先進運転支援システム、シェアサービス、電動化など、いわゆるCASEの導入に伴い、さらにECUの搭載が増加する見通しだ。当社が誇る自動車関連技術と無線技術を結集した試験場であるモビリティ技術開発センターを開設したことにより、CASEの試験計画から認証に至るまでをワンストップで提供する体制が強化された」
テュフ ラインランド ジャパンのトビアス・シュヴァインフルター社長は7月30日に行ったオンライン会見でこう挨拶した。テュフ ラインランドと言えば、約150年の歴史を持つドイツの第三者認証機関で、56カ国に500拠点、227カ所の試験場を持つ。全世界で約2万人の従業員を抱え、売上高は21億ユーロ、日本円で約2500億円。そのうち約半分がドイツ国外の売り上げとなっている。
「1904年にドイツで自動車の車検と運転免許制度が始まると同時に、運輸・交通部門を立ち上げた。それ以降110年以上にわたり、自動車技術の発展とともに、自動車産業の技術開発と安全に関わってきた。現在、運輸・交通部のほかに、産業サービス部、製品安全部、教育・ライフケア部、システム認証部の計5つの部門で事業を展開している」とテュフ ラインランド ジャパン運輸・交通部の有馬一志部長は説明する。
日本では、1978年に事務所を設立し、5年後の83年に日本法人を設立。現在、今回のモビリティ技術開発センターを含めて日本国内に7拠点あり、約400人の従業員が働いている。
「われわれは欧州指定の技術機関として、今後のニーズに応えるためにモビリティ技術開発センターを設立し、高度な車載電子システムに対して車両全体の安全性適合評価を行い、自動車を使用するユーザーに安全安心を提供する役割を担っていこうと思っている」と有馬部長。
モビリティ技術開発センターは今後の発展につながる大きな一歩
さて、今回開設したモビリティ技術開発センターだが、2階建てで延べ床面積は1154平米。2階がオフィスとなっており、1階に車載機器用電波暗室2室、車載機器・ワイヤレス機器用電波暗室1室、シールドルーム1室、テストルーム1室が並んでいる。
これにより、車載されるECUや電気・電子機器のEMC試験、そしてスマートキーレスをはじめとしたSRD(短距離デバイス)の無線試験を行うことができる。EMC試験には、EMI(電磁妨害性/エミション)試験とEMS(電磁耐性/イミュニティ)試験の両方が含まれている。
有馬部長によると、ECUが正しく動作するためには、外部への電磁波を出して他の電子機器への影響を与えないように放射(エミッション)を抑制するとともに、外部からの電磁波の影響を受けないように耐性(イミュニティ)を確保するのが重要とのこと。もし、エミッション抑制とイミュニティ確保が適切に行われないと、トラックが通過した近隣のテレビやラジオの電波が乱れたり、階部からの電磁波でエンジンがかからなくなるという事象が発生してしまう。
これらの事象を回避するために自動車のEMC法規が定められたわけだが、今後CASE技術が進むにつれ、その安全法規も増加していくという。「このことは今後、第三者認証機関のサポートにより、技術的・法規的な適合性を評価する需要がますます増加するであろうということを意味している」と有馬部長と話し、モビリティ技術開発センターが果たすべき役割は大きいと見ている。
テュフ ラインランド ジャパンはこれまで完成した製品の試験や認証が主体だったが、これからは新しい部品やシステムの企画段階から相談を受けたり、技術的なサポートにも力を入れていく方針だ。シュヴァインフルター社長は今回のモビリティ技術開発センターの稼働について「今後の発展につながる大きな一歩だ」と強調していた。