九州大学は12月1日、同大学院工学研究院/次世代接着技術研究センターの織田ゆか里助教、田中敬二教授らの研究グループが、固体基板上に孤立して存在する高分子鎖が、熱処理とともにその形態を変化させ吸着していく様子を直接観察することに成功したと発表した。
同研究の成果は、界面に存在する高分子鎖の構造・物性の特異性を利用した革新的接着技術の構築に必要な情報であるとともに、その実現に向けた大きな一歩となると期待されている。
次世代モビリティの軽量化を目的として構造部材のマルチマテリアル化が推奨され、将来的にはオールプラスチック化が予測されている。このため、部材の組立は現在のボルト・リベットなどを用いた接合技術から、高分子材料を用いた接着技術へ転換することが喫緊の課題となっていた。
人命に関わるモビリティにおいて、接着技術を導入するには、学理に基づく強度や耐久性の保証およびそれらに基づいた健全性や信頼性が求められる。しかしながら、現状では、実接着界面での破壊挙動の分子描像はもちろん、その接着機構すら理解できていなかった。
同研究グループでは、原子間力顕微観察(Atomic Force Microscope; AFM)に基づき、マイカ基板上に孤立して存在する高分子(ポリメタクリル酸メチル(PMMA))鎖が、熱処理とともに基板上でその形態を変化させていく様子を直接観察することに成功。高分子鎖の吸着現象は、従来は分光学的なデータから議論されてきたが、同研究では「直接観察」とともに、分子動力学計算を行うことで形態変化がコンフォメーション転移であることを明らかにした。
その変化は、被着体上で接着剤が固化していく際の素過程に対応しており、界面コンフォメーションの絡み合い制御方法を示唆していることから、接着強度や寿命予測の理解と設計につながると考えられる。
モビリティ部材を接着技術だけで組み上げることが可能になれば、軽量化の実現、すなわち、燃費向上による省エネ化、低炭素化が加速する。さらに、センサーの小型化も進展しており、これらを自在に組み立てるための接着が可能になれば、モビリティの自動運転が飛躍的に進展し、安全・安心社会の推進へ大きく貢献すると期待がかかる。
なお、同研究は、九州大学次世代接着技術研究センターの山本智教授、大学院工学研究院の川口大輔准教授、次世代接着技術研究センターの盛満 裕真博士と共同で行われたものである。