左から研究開発本部先進技術研究所の小林正弘所長、大島健夫氏、林佑介氏
京セラは10月11日、夜間、雨、霧など視界が悪い環境下でも危険要因になる可能性のある物体を高精度に認識することで安全な運転を支援する「車載ナイトビジョンシステム」を開発したと発表した。同社では2027年以降に事業化することを目指し、今後も研究開発を進めていく方針だ。(経済ジャーナリスト 山田清志)
白色光と近赤外光の一体型レーザーヘッドライトを採用
「当社の先進技術研究所では、さまざまな社会課題の解決に向け、要素研究やシステム研究を行っている。その研究成果を具現化し、それをADAS(先進運転支援システム)向けに開発したのが今回の車載ナイトビジョンシステムだ」と研究開発本部先進技術研究所の小林正弘所長は説明会の冒頭に話し始めた。
現在、夜間の交通事故は昼間に比べて死亡事故率が2.5倍、また霧発生時の交通死亡事故率は事故全体に対して3.3倍に達する。その課題を解決するために、可視光カメラ、赤外線カメラ、ミリ波レーダー、LiDARなどのセンサーで危険要因の検出を行っているが、どのセンサーも一長一短で検出機能が十分ではなかった。しかも、すべてを搭載すると、コストもかかる。危険認知機能の高度化とセンサー搭載数削減の両立が課題だったという。
車載ナイトビジョンシステム
「今回開発した車載ナイトビジョンシステムは、独自の照明技術とAI技術の融合により、危険認知機能の高度化とセンサー搭載数削減を同時に実現したものである」と同研究所自動走行システムラボの大島健夫氏は話し、3つの特長があるという。
1つ目が白色光と近赤外光の光軸一致・一体型レーザーヘッドライト(White-IR照明)を世界で初めて採用したこと。これにより、光の当たり方に差が出ず、経年変化も生じにくいため、より精度の高い認識結果の表示が可能になった。
この一体型ヘッドライトは、米国子会社の京セラSLDレーザーが独自開発した高輝度・高効率かつ小型パッケージのGaN製白色光レーザーを搭載することで実現したもの。ヘッドライト内の白色光をロービーム、近赤外光をハイビームなど、人や物に応じて配光を変化させることができるため、眩しさを抑えながらセンシングができる。また、一体型によりヘットライトの省スペース化とクルマのデザインに自由度が増す。
車載ナイトビジョンシステムで映し出された映像
交通インフラや小型低速モビリティへの応用も
2つ目が京セラ独自のフュージョン認識AI技術によって高精度検出ができること。車両に搭載したRGB-IRセンサーには、先進技術研究所で独自に開発したフュージョン認識AI技術を採用。このAI技術では、可視光画像による認識結果と近赤外光画像による認識結果を単純に足し算するのではなく、可視光画像と近赤外光画像の両方から信頼性の高い領域を組み合わせて判断することが可能になった。
文字通り、通常時の認識に強い可視光画像と悪条件の認識に強い近赤外光画像の両方の強みを併せ持つシステムというわけだ。これにより、視界の悪い環境下でも高精度に歩行者や車両を検出し、危険要因の検知とドライバーへの通知を行う。
3つ目が大幅なAI学習コストの削減と高精度な認識を両立したこと。従来の手法では、膨大な近赤外光の学習データの収集が必要で時間とコストがかかっていたが、今回開発した手法では、可視光の学習用画像から近赤外光の学習画像を自動生成する学習データ生成AI技術を確立し、大幅な学習コストの削減と高精度な認識を両立した。
京セラでは2027年以降の市場投入を目指しているが、車載システムだけでなく、路側機などとの連携によるインフラ側での交通環境の見守りシステムや、夜間の警備や配送などにおける小型低速モビリティ、ドローンなどへの応用も視野に入れている。
今回開発した車載ナイトビジョンシステムは、10月18日から千葉県の幕張メッセで開催される「CEATEC 2022」や2023年1月に米国ラスベガスで開催される「CES」に展示する予定だ。