研究開発本部の松原孝宏氏と赤松知幸氏
京セラは9月29日、社会課題の解決するための新技術についての説明会を開催し、データセンターの省電力化に貢献する「オンボード光電気集積モジュール」を開発したと発表した。このモジュールは、従来のものよりも約40%の電力が削減できるそうで、今後、パートナーと連携して実証実験を進め、2023年の下期に商品化を目指す。(経済ジャーナリスト 山田清志)
512 Gbpsの伝送帯域を世界で初めて実現
現在、AI・IoTなどの活用や5Gなど新たな通信規格の普及拡大に伴い、インターネットの通信料は急激に増加して、データセンターの高速大容量化が求められている。しかし、それに比例してデータセンターでは多くの電力が消費され、省電力化が大きな社会問題となっている。
「国内のデータセンターの電力消費量は2030年には90テラワットアワーに達し、しかも現在の年間消費量の倍近い電力をコンピュータ機器が消費すると言われていて、未来の情報化社会のためには低消費電力化が避けて通れない」と研究開発本部伝送デバイス開発部責任者の松原孝宏氏は話す。
オンボード光電気集積モジュール
京セラが今回開発したオンボード光電気集積モジュールは、サーバー内のプロセッサ付近に搭載が可能な小型サイズを実現し、信号伝送を早い段階で光り配線化するため、省電力奈信号伝送が可能となっている。また、512Gbpsという伝送帯域を世界で初めて実現し、データセンターの高速大容量化にも貢献できる。
松原氏によれば、これから自動運転やメタバースなどの通信に対応するには、タイムラグが発生しないようにユーザー端末の近くに分散したサーバーで処理する必要があり、さまざまな場所にデータセンターを敷設しなければならないそうだ。そこで、活躍できるのが今回の開発したモジュールで、「高速大容量化はもちろん、小型化も実現したことで、省スペース化にも貢献でき、都心など限られたスペースでのデータセンターの敷設が可能になる」という。
サーバーシステム全体では50%以上の削減
それでは、その特長である省電力化、高速大容量化についてもう少し詳しく説明しよう。まず省電力化については、通常、電気信号の送受信には銅製の配線を使用するが、信号損失が大きく、実際に送信できるデータ量以上の出力が必要だった。
オンボード光電気集積モジュールを搭載することで、プロセッサから送られる信号をすぐに損失の少ない光配線化することができ、また受信の際もプロセッサに届く直前まで光信号で受信することができる。そのため、配線損失および出力が少なくて済み、消費電力を抑えることが可能となる。
「現行のモジュールより約40%の電力を削減でき、サーバーシステムに入れることによってシステム全体で50%以上削減できると見ている」と研究開発本部先進マテリアルデバイス研究所の赤星知幸氏は説明する。さらに、データセンターの空調費も抑えることができるという。
また、高速大容量化については、現在商品化されている既存のオンボード光モジュールは100Gbpsを伝送できる製品が最速だったが、今回京セラが開発したモジュールは512Gbpsの伝送帯域を実現した。実装用の基盤には、京セラの低温焼成形セラミック基板(LTCC)を使用し、微細配線、低誘電率、多層化に優れている基盤特性を活かし、512Gbpsの伝送帯域を実現したそうだ。
「性能や特性については今回の開発品で出せたが、実際に使用した際の課題の洗い出しがまだ残っている」と松原氏は話し、今後はパートナー企業との実証実験を重ね、量産に向けた技術の確立や製造コストの最適化、サプライチェーンの構築などを進めていく。2023年の下期には第1弾の製品が市場に出てくる予定だ。