ジェイテクトは11月9日、2018年から金沢大学の辻口准教授と共同研究を進めてきた、ギ酸を用いた新燃料電池「直接ギ酸形燃料電池」の50W級機能実証機を、国内で初めて開発したと発表した。
この新燃料電池をカーボンニュートラルの要素の一つとして、脱炭素社会の実現、SDGsの目標達成に貢献していくとしている。
ジェイテクトでは、環境チャレンジ2050に於いて、「低炭素社会の構築」「循環型社会の構築」等5つの項目で環境指針を掲げており、その一環として、自動車部品、軸受、工作機械など既存事業の枠を超え、脱炭素社会への対応として「つくる」「つかう」「もどす」の視点で、新エネルギーの研究に取り組んでいる。
現在、一般的な新エネルギー資源としては、水素、アンモニア、アルコールなどが挙げられるが、ジェイテクトでは環境循環性に優れ、エネルギー密度が高いギ酸に着目。燃料電池分野に精通する金沢大学の辻口准教授との「直接ギ酸形燃料電池」の共同研究を2018年に開始し、産学連携により研究を加速、そして今回、実用化に向けた50W級機能実証機の開発に成功した。
ギ酸は、工業分野に於いて、樹脂や酢酸製造時の副産物としても生産・流通しているが、主に畜産・農業分野など限定的な分野での使用に留まり、エネルギー資源としては未利用。その分子構造はHCOOHで、水溶液は燃焼・爆発の可能性もなく、また環境循環性が高いことから、他の発電用燃料と比べて、安全性や入手性、環境性に優れる他、将来的には、人工光合成に代表される二酸化炭素と水の反応で合成されるギ酸の活用も期待できる物質であると云う。
「直接ギ酸形燃料電池(J-DFAFC)」は、固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)の一種で、燃料として水素ガスやアルコール水溶液ではなく、ギ酸水溶液(HCOOH)と空気中の酸素(O2)を用いて発電する燃料電池。
負極(アノード)に供給されたギ酸水溶液が、触媒により二酸化炭素(CO2)に分解され、その際に水素イオン(H+)と電子(e-)を生成。生成された電子が外部回路を通り、また水素イオンが電解質膜を通ってカソード(正極)に達することで、酸素と反応し水(H2O)を生成。これら化学反応により電力を発生させる。
今回開発の機能実証機では、金沢大学の独自パラジウム触媒(Pd/C)技術、ジェイテクトの既存事業で長年培ってきた材料・表面処理技術、解析技術、モノづくり技術などを駆使し、発電効率を向上。電池サイズを9cm角、セルを複数枚積層した構造で、メタノールを利用した燃料電池よりも高い、最大出力密度290mW/cm2を達成。また、低騒音・低振動で稼働させることが可能で、液体型燃料電池の特長を活かした長時間の発電もできると云う。
ジェイテクトでは現在、数百W級の燃料電池の開発を進め、社内での利用を計画。今後は、1kW級の開発を進め、その商品化を目指すと共に、照明、通信用電子機器などの電源をはじめ、非常用電源、遠隔地電源、さらには住宅や施設での小型分散電源など用途に向け、出力密度の向上、電力安定化の技術開発を進めるとしている。