NEXT MOBILITY

MENU

2024年12月10日【テクノロジー】

JLR、循環型リサイクル材によるシートフォームを新開発

坂上 賢治

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 

自動車業界初の閉循環素材であり、かつ高級車向けのシートフォームを世に出す

 

ゲイドンのJLR本社に拠点を構えるJLR Circularity Lab( ジャガーランドローバー・サーキュラリティ・ラボ )は先の11月27日( 英国時間 )、使用済み車両から回収したポリウレタン製シートフォームを再度そのまま新しいシートの構成素材へと再利用できる技術開発に成功。同分野のクローズド・ループ・リサイクル領域に於いて、新たな地平を切り拓いた。

 

より具体的には、技術パートナーや複数のサプライヤー企業と部門横断的なチームを結成。回収・リユース・修理・リサイクルの可能性についての障壁を克服するべく協力体制を敷き、その結果、独自開発した循環型リサイクル材料を再利用できる画期的なポリウレタン製シートフォームの製造実用化への目処をつけた。

 

開発されたリサイクルフォームは、新型車に搭載されるドライビングシートの完成品として充分以上の性能を維持しつつもCO2排出量を半減させ、シート1枚あたり44kg以上の CO2の排出を削減できる。これはスマートフォン3,000台近くを一度に充電するのに等しい排出量の削減となる。 

 

ちなみに、この共同研究に参加したのは、世界31カ国で製造拠点を操業し、従業員数・約3万7800人を抱える化学企業のダウ・ケミカル( Dow )。更に自動車シート専業メーカーのアディエント( Adient )の協力を得て、自動車生産の現場で有用かつ完全なクローズドループを成し遂げたポリウレタン・シートフォームが生み出された。

 

 

そもそもポリウレタンフォームは産業の垣根を越えてリサイクルが難しいことで良く知られている。それは耐久性を重視して設計し、完成品として製造されているためだ。従ってこれまで、ポリウレタンフォームは生産車両が使用を経て最終廃棄される毎に、埋め立て地に廃棄され、それは以降、数世代に亘って環境上の課題として残り続けてきた。

 

JLRは、この一方向のみの生産・廃棄の流れを閉じて循環する新たなサプライチェーンの流れを構築することで、CO2排出量と廃棄物を削減させ、自動車用の低炭素シートフォームを安全に供給できるようにした。

 

この取り組みにJLRで最高サステナビリティ責任者を務めるアンドレア・デベイン氏は、「新たなクローズドループが完成できたことに私はとても興奮しています。これは物事を真正面から捉えて停滞させるのではなく、物事の見方を変えて異なる方法を模索するという取り組みの正しさを示しており、今後、未来の自動車を設計・製造するべく必要なソリューションを見つけるためには、あらゆる角度からアプローチを再考すしなければならないことを私たちに示していると思います。

 

革新の姿勢を求め続けることだけが、正しい成果を生む原動力になる

 

上記を踏まえてダウでモビリティ部門を率い責任者を務めるジョン・ペンライス氏は、「今回のコラボレーションの成果は、先進的な材料科学を通じて持続可能なモビリティを実現させるとしてダウが掲げている変革の姿勢〝Dow MobilityScience™〟を求め続けることの正しさを裏付けるものです。

 

当社は、JLRと共に掲げたこのテーマに取り組み、時には自動車開発の最先端を走るジャガーTCSレーシングのようなイノベーションの最前線の現場(ダウは2021年からジャガーTCSレーシングの材料科学パートナーとしても活動している)でも、自らの技術と未来を見つめる眼を磨き続けてきました。

 

 

今後も歴史的な変革期に於於いて自動車業界での成功に必要な柔軟性、イノベーション、コラボレーションを加速させていく姿勢を絶やすこと無く、各バリューチェーンのパートナー企業と共に、お客様と社会に有益なソリューションを提案し続けていきます」と語っている。

 

更にアディエントでカスタマーグループ副社長を務めるミック・フラナガン氏は、「アディエントは、完全なクローズドループリサイクル素材をシートソリューションとして生みだしたことを誇りに思います。

 

JLRおよびダウとのコラボレーションは、持続可能性の追求に対する当社の取り組みを自動車産業界へ示すだけでなく、革新的な考え方に基づくパートナーシップが、この産業に如何に大きな進歩をもたらすかを実証しています。

 

リサイクルポリウレタンを活用することで、社会から求められる大きな責任の一端を果たすと共に、自動車用に利用されるリサイクルポリウレタン素材の新たな基準を打ち立てる栄誉に浴することができました。また今後も、当社の製品がお客様が期待する以上の環境性能を持たせること。併せて高機能であり、また何よりも快適であることを指針により優れた製品をご提供できるよう努力していきます」と話している。

 

なお、この完全なクローズドループを可能にするシートフォームの大規模生産テストは2025年初頭に開始される予定であると結んでいる。

CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。