【図1】商品開発の方向性と新規開発鋼『JNRF™』の磁気特性
JFEスチールは、このたび、CVD(化学気相蒸着)連続浸珪プロセス技術(※1)を用い、高周波鉄損(※2)の低減と磁束密度(※3)の向上を両立した高速モータ用Si傾斜磁性材料『JNRF™』を新たに開発。これにより、モータの高トルク化と大幅な高効率化(省エネ)を両立することが可能となる。JFEスチールが、12月3日発表した。
(※1) CVD(化学気相蒸着)連続浸珪プロセス技術
鋼帯の焼鈍ラインにChemical Vapor Deposition (化学気相蒸着)法を適用し、連続通板しながら炉内でSiCl4(四塩化珪素)ガスと鋼帯を反応させ、鋼のSi濃度を高めるプロセス技術。
(※2) 高周波鉄損
鉄損とは、鉄心を交流で励磁した際に生じるエネルギー損失であり、主に熱として失われる。高周波で励磁した際に発生するエネルギー損失は特に高周波鉄損と呼ばれ、高速モータにおいては高周波鉄損が低いほどモータ効率は高くなる。
(※3) 磁束密度
磁束密度とは、材料の磁化されやすさの指標であり、磁束密度が高い材料ほど強い電磁石となる。モータにおいては、磁束密度が高い材料を用いることで、より大きなトルク(力)を得ることができる。
電磁鋼板(※4)はモータや変圧器等の電気機器の鉄心材料として広く用いられており、電気機器の性能を左右するキーマテリアルである。近年、電気機器小型化の観点から駆動周波数(※5)の高周波化が進展しており、電磁鋼板には、高周波域での鉄損の低減が求められるようになってきている。高周波域での鉄損を低減するためには、鋼の電気抵抗を高めるSi(珪素)の添加量を増やすことが有効であり、JFEスチールは独自開発したCVD(化学気相蒸着)連続浸珪プロセス技術を用い、高Si鋼(6.5%Si鋼)『JNEXコア®』、および表層のみのSi濃度を高くしたSi傾斜磁性材『JNHFコア®』を開発・販売し、お客様の製品品質向上に貢献してきた(図1①)。
(※4) 電磁鋼板
鉄にSiを添加した材料のことで珪素鋼板とも呼ばれる。モータ、変圧器等の鉄心材料として広く用いられ、絶縁被膜を表面に塗布した薄鋼板が積層されて製品に使用される。
(※5) 駆動周波数
電気機器において、電流・電圧などが1秒ごとに振動する回数のこと。一般的に、高回転で駆動するモータは、駆動周波数が高くなる。
一方で、高速モータ用途においては、高周波域での鉄損低減とともに、高トルク化の観点から高磁束密度化への要求も強くなっており、拡大する様々なモータ用途に対応するため、電磁鋼板のラインナップを拡充する必要があった。
そこでJFEスチールは、浸珪量と拡散条件の最適化によるSi濃度分布のコントロール(図2)および結晶方位制御(図3)に取り組み、従来の無方向性電磁鋼板(3%Si鋼板)並みの磁束密度(トルク)を維持しつつ、モータの大幅な高効率化(省エネ)を可能とする高速モータ用Si傾斜磁性材料 『JNRF™』の開発に成功した(図1②)。今後は、電気自動車の駆動モータ、家電製品用モータ、およびドローンモータなど、小型・高速化が進展するモータ分野での適用拡大を目指すとしている。
【図2】CVD連続浸珪プロセスとSi濃度分布のコントロール
【図3】結晶方位制御
JFEスチールは、これからも、高機能を有する電磁鋼板の開発を推進し、電気機器の高効率化・小型化をはじめとするお客様のニーズに応えていくことで、持続可能な社会の実現に貢献するとしている。
※『JNEXコア®』、『JNHFコア®』はJFEスチール(株)の登録商標。