トーヨータイヤ(TOYO TIRE)は、CAE(Computer Aided Engineering/コンピューター支援技術)とAIを融合した自動車用タイヤ開発プロセスである「T-MODE(Tモード)」を活用し、新たに「リアルタイムシミュレーション技術」と「スノー予測技術」を確立した。
■機械学習を用いたリアルタイムシミュレーション技術
トーヨータイヤは、2000年にタイヤ設計基盤技術「T-mode」を確立し、それを進化させた自動車用タイヤ開発プロセス「T-MODE」を体系化した(2019年7月発表)。
従来、タイヤの開発プロセスでは、設計仕様をインプットしてシミュレーションを実行し、算出された性能値が目標性能に到達するまで、設計仕様を修正して再度シミュレーションを繰り返していたが、この頻度が多くなると、全体のプロセスタームが長くなる。
「T-MODE」ではSPDM(*1)を活用し、これまでのシミュレーションで蓄積したさまざまなデータを集約することに成功。今回、これらのデータを活用し、設計仕様をインプットすることで、AI技術を介してタイヤ性能の予測値を瞬時に導き出す、リアルタイムシミュレーション技術を確立した。
この技術を確立するにあたり、大阪大学(*3)との共同研究を実施。設計工学の考え方に基づいてタイヤの設計仕様とタイヤ性能を横断する階層図を作成し、そのもとでデータサイエンスの手法を活用することで、タイヤ設計仕様とタイヤ性能の関係の可視化に成功した。
また、この関係に基づき、シミュレーションデータを題材として機械学習を実施したところ、短時間の計算で高精度の予測ができることを確認した。
*1)SPDM:Simulation Process and Data Managementの略。各種データを一元管理し、標準化されたプロセスを共有できる基盤システム。
*2)大阪大学 大学院工学研究科機械工学専攻 山崎慎太郎准教授、矢地謙太郎助教、藤田喜久雄教授との共同研究。
<タイヤの設計仕様とタイヤ性能の階層構造(概念図)>
<転がり抵抗の予測値と実計算値との比較>
設計仕様インプット後に、リアルタイムで算出される予測値(横軸)とシミュレーションによる実計算値(縦軸)の比較により、予測値と実計算値が近似していることを確認した。
■スノー予測技術
トーヨータイヤでは、従来から特定の雪質(新雪・シャーベット)におけるスノートラクション性能の予測手法を確立していたが、今回、「T-MODE」の進化したシミュレーション基盤技術を活用し、実際の使用環境における雪質を考慮した高精度なスノートラクション性能の予測を可能とした。
タイヤを実際に使用する条件での雪からのせん断抵抗力(*3)を計測するにあたり、東京海洋大学、長岡技術科学大学、長野工業高等専門学校(*4)からノウハウの提供を受け、共同で計測手法の開発および計測を行なった。
この環状せん断特性摩擦試験機を用いた試験により、駆動、制動時の荷重および車速をふまえた、タイヤのゴムと自然雪との間のせん断力の計測が可能に。これにより、さまざまなタイヤの使用環境における駆動、制動時のブロックやサイプの変形の可視化に成功し、使用環境に適したトレッドパターンが検討できるようになった。
トーヨータイヤでは、今回確立したスノー予測技術を新商品開発に活用していく。
*3)せん断抵抗力:接地部に深い溝で大きなブロックを設けたタイヤにより雪を踏み固め、接地面の方向にせん断する際の雪からの抵抗力。
*4:東京海洋大学 藤野俊和准教授、長岡技術科学大学 阿部雅二朗教授、長野工業高等専門学校 柳澤憲史准教授との共同研究。
<トラクション解析>
<トラクション付与時のサイプ変形>
トーヨータイヤは、日々変化する市場の動きを細かく読み解き、この進化した「T-MODE」を駆使しながら固有のリソースをフルに活用し、差別化された商品を生み出していくとしている。
■(トーヨータイヤ)T-MODE:https://www.toyotires.co.jp/rd/tmode/