ホンダは4月25日、旭化成と「車載バッテリー用セパレーター(絶縁体)」をカナダで協業生産することで、基本合意したと発表した。両社は今後、2024年中の合弁会社設立を目指し、具体的な協議を開始する。
セパレーターとは、リチウムイオン(Li-lon)を透過させる機能を持ち、正極材と負極材の接触を遮断しショートを防ぐ役割を果たす多孔質膜で、リチウムイオンバッテリー(LIB)の重要な部材。
当該新工場で生産するのは旭化成の同事業で中核を担う湿式セパレーターの「ハイポア」となる。セパレーターはリチウムイオン2次電池(LIB)の正極と負極を隔離しつつ、充放電ではリチウムイオンの通路となるもの。これは正極と負極の接触によるショートを防ぐLIBの主要4部材のひとつで、湿式セパレーターは高容量で安全性が高いなどの特徴がある。
今回は、中長期的な成長が見込まれる北米の電動車市場向けに、高性能なバッテリーを安定的に供給するサプライチェーンの確立が重要であるとの共通認識に基づき、今回の合意に至ったとされており、今後は、ホンダの北米市場向けEV(電気自動車)に搭載されるバッテリーや、他のOEM用バッテリーに向けて、セパレーターを生産する合弁会社設立の検討を進めていく。
ちなみに今協業に至った背景には、先の通りの当地に於けるEV市場拡大要因だけではなく、実は米IRA(インフレ抑制法)の存在もある。
つまりEV電池や関連部材を北米で生産することが補助金の給付の条件となったことが協業決定の決めてとなった。IRAが政権交代で撤回になるという見方もあったが、その懸念の薄さも協業開始の後押しとなったとみられる。
結果、双方で設立される合弁会社では、付加価値の高い素材技術や電動化技術といった互いの強みを持ち合い、高品質なセパレーターを車載バッテリーに活用。これを通じて、高性能なEVを実現し、カーボンニュートラルに向けた取り組みを一層、加速させていく構えだ。
新工場稼働に向けた概算投資額は1800億円。主に旭化成が主導するとみられるが、ホンダからの出資や日本政策投資銀行からの280億円の支援も受ける。加えてカナダ連邦政府やカナダ・オンタリオ州からの補助金も視野にしており、補助金額の交渉中は続いている。
両社の今合意について旭化成常務執行役員の松山博圭氏は、 「旭化成は、蓄エネルギー関連事業を『グループの次の成長を牽引する10のGrowth Gears』の1つと位置付けています。
その中核事業であるリチウムイオン電池(LIB)用セパレーター『ハイポア』は、40年を超える事業の歴史の中で技術革新をリードし、LIBの進化に貢献してきました。
今回の協業を通して、北米市場で経験が豊富で自動車電動化に注力するホンダとの連携を深め、本格的な電動化時代に求められるLIBの高生産性・高安全・長寿命に貢献することで、北米でのEV市場の成長とエネルギー転換の一翼を担っていきたいと考えています」と説明した。
一方でホンダ執行役常務の小澤学氏は、「ホンダは、カーボンニュートラルの実現に向け、2040年までにグローバルでEVとFCEVの販売比率を100%にするという目標を掲げています。
セパレーターはEVに欠かせないバッテリーの性能や耐久性の向上に寄与する大変重要な原材料であり、高い技術力と幅広い知見を有する旭化成とのパートナーシップによって、カナダでの生産に取り組むことは、ホンダにとって大きな意義のあるチャレンジです。
この取り組みにより競争力の高いEVを実現し、将来拡大が見込まれる北米市場の電動化需要に応えていきたいと考えます」と述べている。