日立製作所とその子会社で自動車部品メーカーの日立Astemo(日立アステモ)は、9月30日、電気自動車(EV/*1)向けに、ホイール内部にモーターとインバーター、ブレーキを一体搭載できる小型・軽量のダイレクト駆動(*2)システム「Direct Electrified Wheel」を開発したと発表した。
なお、成果の一部は、10月4日から6日にドイツのアーヘンで開催される第30回アーヘン・コロキウムで展示される。
脱炭素社会の実現に向けた投資活動や技術開発が活発化するなか、特に自動車分野では法規制の改正と併せてガソリン車からEVへの転換が強力に進められている。
駆動システムを車体に設置する従来のEVには、車内空間やバッテリー設置スペースの確保といった課題があるが、これを解決する方法として現在、モーターをホイール内部へ搭載するインホイール式のEVが考案され、開発が進められている。
しかし、インホイール式には、ホイール内の重量増加や、ブレーキやサスペンションの大幅な改造が必要になるといった課題も。
今回、日立と日立Astemoは、グループで培った鉄道、エレベーターなど広範なモビリティ分野の技術開発や製品化の実績を基に、これら課題を解決する、モーターとインバーター、ブレーキを一体化した小型・軽量のダイレクト駆動システムを開発した。
開発モーターは、EVの走行に必要となる高い駆動力をホイールに直接伝えると共に、軽量化により世界トップクラスのパワー密度(*3)、2.5kW/kgを実現。従来のインホイール式で課題となっていたホイール内の重量増加を大幅に抑制。また、小型化したモーターにインバーターとブレーキを一体化することで、サスペンション等の既存構造の大幅変更なしでホイール内部への搭載も可能とした。
さらに、これを基に開発したインホイール式EVでは、ドライブシャフトなどの間接機構を廃してモーターの力をそのままEVの走行に利用することで、既存EVに比べてエネルギーロスを30%低減。一回の充電で走行できる航続距離を増やすことができると云う。
[開発技術の特長]
1.世界トップクラスのパワー密度を実現
モーターの駆動力向上には磁極数増加が効果的ではあるが、有効利用可能な磁束割合の低下や、コイルの溶接箇所やスペースが増大する課題があった。
そこで今回、磁石をハルバッハ配列(*4)とし、磁極ごとの有効磁束を増加させることで駆動力を向上。加えてビーム溶接(*5)等により、扁平なコイルを高密度に配列することでモーターを軽量化。世界トップクラスのパワー密度2.5kW/kgを実現した。
開発したEVでは、ホイール内の重量増加を大幅に抑制、従来のインホイール式で課題だった重量化に伴うエネルギーの消費増大を回避している。
2.ダイレクト駆動システム
従来のモーターは、パワー密度が低く十分な駆動力の確保にホイール内部のスペースが占有されてしまうため、既存のブレーキやサスペンションの流用が困難。また、インバーターを構成するパワー半導体に冷却水が付着し漏電することを防ぐため、電気的に絶縁された専用の冷却水路のスペースが必要だった。
開発品では、小型・軽量化したモーターにブレーキとインバーターを一体化すると共に、絶縁性の高い冷却油でパワー半導体の直接冷却し、その後モーターに循環してコイルも直接冷却する技術で、冷却配管のスペースを大幅に削減。これにより、サスペンションなどの既存構造を大きく変更せずに、ホイール内への搭載を可能とした。
<システム仕様>
– モーターパワー密度:2.5kW/kg
– ホイールサイズ:19インチ
– 最大出力:60kW
– 最大トルク:960Nm
– 供給電圧:420V
– 最大電流:280A
日立と日立Astemoの両社は、今後、この技術の実用化に向けた研究を進め、車内空間やバッテリー設置スペースの拡大が容易なインホイール式EVの実現に貢献するとしている。また、日立Astemoは、今回開発したダイレクト駆動システムや培ってきた車両制御技術を基に、より幅広いラインアップのEV向け製品のグローバル展開を目指すとしている。
*1)EV: Electric Vehicle。
*2)ダイレクト駆動:モーターの駆動力をダイレクトに車輪に伝達する駆動方式
*3)モーターのパワー密度:モーターの出力と重量の比。重量にはモーターを格納する筐体、駆動シャフトを含む。
*4)ハルバッハ配列:磁石のN極の向きを90°ずつ回転させて配置することで、モーターの各磁極で高密度の磁束を発生する構造。
*5)ビーム溶接:ビームを集中して照射することにより金属を局部的に溶融させる溶接方法。
※タイトル画像左:ダイレクト駆動システム「Direct Electrified Wheel」(赤色部分をホイール内部に搭載)。右:「Direct Electrified Wheel」をホイール内部に搭載したEV(モックアップ)。