NEXT MOBILITY

MENU

2021年9月30日【テクノロジー】

日立ら、小型・軽量のダイレクト駆動システムを開発

NEXT MOBILITY編集部

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
画像左:ダイレクト駆動システム「Direct Electrified Wheel」(赤色部分をホイール内部に搭載)。右:「Direct Electrified Wheel」をホイール内部に搭載したEV(モックアップ)。

 

日立製作所とその子会社で自動車部品メーカーの日立Astemo(日立アステモ)は、9月30日、電気自動車(EV/*1)向けに、ホイール内部にモーターとインバーター、ブレーキを一体搭載できる小型・軽量のダイレクト駆動(*2)システム「Direct Electrified Wheel」を開発したと発表した。

 

なお、成果の一部は、10月4日から6日にドイツのアーヘンで開催される第30回アーヘン・コロキウムで展示される。

脱炭素社会の実現に向けた投資活動や技術開発が活発化するなか、特に自動車分野では法規制の改正と併せてガソリン車からEVへの転換が強力に進められている。

 

駆動システムを車体に設置する従来のEVには、車内空間やバッテリー設置スペースの確保といった課題があるが、これを解決する方法として現在、モーターをホイール内部へ搭載するインホイール式のEVが考案され、開発が進められている。

 

しかし、インホイール式には、ホイール内の重量増加や、ブレーキやサスペンションの大幅な改造が必要になるといった課題も。

 

今回、日立と日立Astemoは、グループで培った鉄道、エレベーターなど広範なモビリティ分野の技術開発や製品化の実績を基に、これら課題を解決する、モーターとインバーター、ブレーキを一体化した小型・軽量のダイレクト駆動システムを開発した。

 

 

 

 

開発モーターは、EVの走行に必要となる高い駆動力をホイールに直接伝えると共に、軽量化により世界トップクラスのパワー密度(*3)、2.5kW/kgを実現。従来のインホイール式で課題となっていたホイール内の重量増加を大幅に抑制。また、小型化したモーターにインバーターとブレーキを一体化することで、サスペンション等の既存構造の大幅変更なしでホイール内部への搭載も可能とした。

 

 

 

 

さらに、これを基に開発したインホイール式EVでは、ドライブシャフトなどの間接機構を廃してモーターの力をそのままEVの走行に利用することで、既存EVに比べてエネルギーロスを30%低減。一回の充電で走行できる航続距離を増やすことができると云う。

 

 

 

 

[開発技術の特長]

 

1.世界トップクラスのパワー密度を実現

 

モーターの駆動力向上には磁極数増加が効果的ではあるが、有効利用可能な磁束割合の低下や、コイルの溶接箇所やスペースが増大する課題があった。

 

そこで今回、磁石をハルバッハ配列(*4)とし、磁極ごとの有効磁束を増加させることで駆動力を向上。加えてビーム溶接(*5)等により、扁平なコイルを高密度に配列することでモーターを軽量化。世界トップクラスのパワー密度2.5kW/kgを実現した。

 

開発したEVでは、ホイール内の重量増加を大幅に抑制、従来のインホイール式で課題だった重量化に伴うエネルギーの消費増大を回避している。

 

2.ダイレクト駆動システム

 

従来のモーターは、パワー密度が低く十分な駆動力の確保にホイール内部のスペースが占有されてしまうため、既存のブレーキやサスペンションの流用が困難。また、インバーターを構成するパワー半導体に冷却水が付着し漏電することを防ぐため、電気的に絶縁された専用の冷却水路のスペースが必要だった。

 

開発品では、小型・軽量化したモーターにブレーキとインバーターを一体化すると共に、絶縁性の高い冷却油でパワー半導体の直接冷却し、その後モーターに循環してコイルも直接冷却する技術で、冷却配管のスペースを大幅に削減。これにより、サスペンションなどの既存構造を大きく変更せずに、ホイール内への搭載を可能とした。

 

<システム仕様>

– モーターパワー密度:2.5kW/kg
– ホイールサイズ:19インチ
– 最大出力:60kW
– 最大トルク:960Nm
– 供給電圧:420V
– 最大電流:280A

 

 

 

 

日立と日立Astemoの両社は、今後、この技術の実用化に向けた研究を進め、車内空間やバッテリー設置スペースの拡大が容易なインホイール式EVの実現に貢献するとしている。また、日立Astemoは、今回開発したダイレクト駆動システムや培ってきた車両制御技術を基に、より幅広いラインアップのEV向け製品のグローバル展開を目指すとしている。

 

 

*1)EV: Electric Vehicle。
*2)ダイレクト駆動:モーターの駆動力をダイレクトに車輪に伝達する駆動方式
*3)モーターのパワー密度:モーターの出力と重量の比。重量にはモーターを格納する筐体、駆動シャフトを含む。
*4)ハルバッハ配列:磁石のN極の向きを90°ずつ回転させて配置することで、モーターの各磁極で高密度の磁束を発生する構造。
*5)ビーム溶接:ビームを集中して照射することにより金属を局部的に溶融させる溶接方法。

 

※タイトル画像左:ダイレクト駆動システム「Direct Electrified Wheel」(赤色部分をホイール内部に搭載)。右:「Direct Electrified Wheel」をホイール内部に搭載したEV(モックアップ)。

 

 
■日立Astemo:https://www.hitachiastemo.com/jp/
CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。