日立製作所と東北大学・多元物質科学研究所(IMRAM)の本間格教授らの研究グループは、従来の有機電解液よりも引火点が高く、燃えにくい新規電解質を用いた高安全なリチウムイオン二次電池(LIB)の試作に成功した。
試作では容量100Whのラミネート型電池(*1)を用い、充電や放電などの電池特性を確認、さらに従来の有機電解液LIBでは発火に至る釘刺し試験(*2)において、試作したLIBの不燃性を実証した。
この技術により、安全性を確保しつつ、車載や民生用途向けなどのLIBの高容量化、高エネルギー密度化が可能となるとしている。
LIBはスマートフォン、タブレットの小型携帯端末用電源をはじめ、電気自動車用電源や再生可能エネルギーの需給調整など、様々な用途で活用されている。
しかし、一般的なLIBでは、引火点が20℃以下の有機溶媒を電解液として用いているため、異常発生時に発火する恐れがある。
そのため、現行の電池システム(*3)には、発火を抑制する補強材や冷却機構が設けられており、システム小型化などの妨げとなっていた。
東北大学では、2011年より、発火しにくく、安全性の高いLIBの開発に向けて、引火点の高いLIB向け電解質の検討を開始(*4)。
今回、日立と東北大学は、共同で開発した新規電解質を用いてラミネート型のLIBを試作し、電池の基本動作を確認。さらに、電池安全性試験法の一つ「釘刺し試験」での不燃性を実証した。
開発技術の概要は以下の通り。
1. 高い引火点とリチウムイオン伝導性を両立する電解質材料技術
LIB用の電解質には、安全性を担保するための高い引火点に加え、スムーズな充放電反応を進行させるための高いリチウムイオン伝導性が必要。
今回、新規電解質内のリチウムイオン伝導挙動をシミュレーション解析し、リチウムイオン伝導を促進する液体成分を探索することで、従来比4倍の高リチウムイオン伝導性と、有機電解液よりも100℃以上高い引火点の両立に成功した。
2. 新規電解質を用いた電池製造技術
今回開発の新規電解質を用いてラミネート型電池を試作。
界面改質技術により電解質の電気化学的安定性を向上させることで、電池容量低下の要因となる正極および負極表面での新規電解質の分解反応を抑制し、設計値(*5)どおりの電池容量で充放電の繰り返し動作を実現した。
さらに、ナノ・ミクロスケール領域の電解質材料分布の最適設計、製造条件の最適化を施すことで、電池の信頼性低下の要因となる電解質材料の凝集や空隙、クラック形成を抑制し、エネルギー密度の高い電池容量100Whラミネート型電池試作に成功した。
試作したラミネート型電池の安全性を釘刺し試験により検証したところ、内部短絡による発熱が抑制され、発火に至らないことを実証した。
これにより、従来の電池システムで安全性を担保するために設けられた補強材や冷却機構を削減したシステム設計が可能となるため、システム小型化、価格競争力向上が期待できる。
今後、日立と東北大学は、開発したLIBの実用化に向けて、更なる高エネルギー密度化、充放電時間の短縮化など電池の性能向上をめざすとしている。
*1)ラミネート型電池:正極、負極と新規電解質の積層体をアルミニウムラミネートシートで覆い熱融着により密閉した電池
*2)釘刺し試験:電池の発熱、発火の要因となる内部短絡を模擬した、強制内部短絡試験法のひとつ。充電深度100%まで充電した電池に対し、外部より釘を挿入し、強制的に電池内で短絡を生じさせる試験。
*3)電池システム:複数のリチウムイオン二次電池と電池の冷却、安全機構、電池制御回路を一体化したシステム
*4)S. Ito, A. Unemoto, H. Ogawa, T. Tomai, I. Honma, J. Power Sources 208 (2012) 271-275.
*5)設計値:開発した電池で充放電できる最大の電気量、エネルギー密度。電池開発に用いる正極および負極材料の種類や量、電池の運転条件によって決まる値。
[問い合わせ先]
・日立製作所
研究開発グループ 研究管理部 [担当:鈴木、太田、黒澤]
〒319-1292 茨城県日立市大みか町7丁目1番1号
電話 : 0294-52-7508 (直通)
・国立大学法人東北大学
多元物質科学研究所 [担当:本間 格(いたる) 教授]
〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平二丁目1番1号
電話 : 022-217-5815