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2019年4月22日【テクノロジー】

東芝デバイス&ストレージ、ライダー測距の改善アルゴリズム開発

NEXT MOBILITY編集部

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東芝デバイス&ストレージは、レーザの照射により離れた物体までの距離情報を3D画像として得る「LiDAR(注1)」の長距離測定の解像度を向上させる計測アルゴリズム技術を開発した。

 

この技術により、長距離の測距画像の解像度(注2)を、東芝グループの従来技術(注3)に比べ2倍以上に向上(注4)。技術の詳細を、横浜で開催された「COOL Chips 2019」で、4月19日に発表した。

東芝・ロゴ

 

[開発の背景]

 

周辺環境を3D画像として把握できるLiDARは、高度な自動運転システムの実現に資する有力な技術とされている。

 

車載向けLiDARには、長距離を検知する性能が求められており、長距離を測定するには、太陽光などのノイズの影響を低減し、微弱な反射光の検知能力に加え、遠方のバイクや歩行者を検知するための高解像度な測距画像も求められる。

 

従来、ノイズの影響を低減する手法としては平均化処理が用いられてきたが、この手法では、長距離になった場合の精度維持や誤検出の除去に課題があった。

 

この解決に向け、東芝と東芝デバイス&ストレージは、スマート平均化アルゴリズム(SAT)と呼ばれる計測回路技術と距離データの信頼度を判断する技術を開発し、200mまでの長距離を高精度に測定することに成功したが、一方で、車載向けLiDARに求められる解像度にはさらなる改善の必要があった。

 

そこで東芝デバイス&ストレージは今回、SATの性能を向上させた「フレーム間スマート平均化アルゴリズム(I-SAT)」を開発し、長距離測距における解像度を改善した。

 

 

 

 

[フレーム間スマート平均化アルゴリズム(I-SAT)について]

 

従来のSATでは、単一のフレーム(時間軸)における平均化の結果を基にノイズの影響を低減していたが、単一のフレームの情報だけでは、解像度の向上に限界があるため、複数のフレーム情報の利用を必要としていた。

 

しかし、複数のフレームの情報を基に平均化を実行しようとすると、前フレームの情報を保持しなければならないため、膨大なメモリ量が必要になり、実装コストが増加。また、測距の対象が移動する場合、前フレームの情報を現フレームの情報と混同し、間違った結果を出力してしまう問題があった。

 

今回開発のI-SATでは、前フレームの測距データをそのまま保持するのではなく、測距結果のみを保持することで、メモリの使用量を削減。また、前フレームの情報を利用する際、測距結果を枠として設定し、その枠の中にある現フレームのデータも出力データの候補として追加し、前フレームと現フレームの情報を混同することなく、出力データの候補数を増やすことができ、解像度が改善した。

 

更に誤検出の除去においても、複数のフレームの測距結果を使用して信頼度判断を行うことで、信頼性を向上させた。

 

これらの特長を備えたI-SATを用いることで、200mの長距離における解像度は、東芝グループの従来技術(注3)に比べ2倍以上に改善。車載向けLiDARに求められる空間分解能0.1°を実現した(注4)。

 

 

 

 

また、同一解像度における測距可能距離は22%増大。これにより、実装コストを、従来技術から1%以下の増加に抑えた(注5)。

 

 

 

 

東芝デバイス&ストレージは今後、本技術のさらなる測距精度向上や実装化に向けた開発を進め、2020年までに同計測アルゴリズム技術の実用化を目指す。

 

更に、LiDARシステム向けの半導体の高感度な集積型光センサ(SiPM)の開発を進め、今後もより高度な運転支援システム、自動運転システムの実現に貢献する半導体製品の開発を加速していくとしている。

 

 

注1)LiDAR:Light Detection and Ranging。

注2)解像度:距離方向(Z方向)に直行する方向(X,Y方向)に関する、距離情報の細かさ・密度。

注3:「ISSCC(International Solid-State Circuits Conference) 2018」で東芝が発表した計測回路技術(論文タイトル:20ch TDC/ADC Hybrid SoC for 240×96-pixel 10%-Reflection <0.125%-Precision 200m-Range-Imaging LiDAR with Smart Accumulation Technique)と、「COOL Chips 21」で東芝デバイス&ストレージが発表した技術(論文タイトル:Data Selection and De-noising Based on Reliability for Long-Range and High-Pixel Resolution LiDAR)を併用したもの。

注4:2019年3月時点、東芝デバイス&ストレージのシミュレーション結果に基づく。(測定条件:反射率10%、環境光は100 K lux、当社光学系に関して。測距成功は距離誤差が距離の1m以内と定義)。

注5:2019年3月時点、水平450画素と垂直192画素のフレームに対して、28nmプロセスで実装した場合のシミュレーション結果に基づく。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。