NEXT MOBILITY

MENU

2022年2月15日【オピニオン】

デンソー、TSMC・ソニーの合弁会社に約400億円出資

坂上 賢治

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 

デンソーは2月15日、TSMC(台湾積体電路製造)とソニーグループ(ソニーセミコンダクタソリューションズ、以下SSS)が熊本県菊陽町に半導体の新工場を共同で建設する目的で設けられた新事業会社(ジャパンアドバンスドセミコンダクターマニファクチャリング、以下JASM)に、約3億5000万ドル(約400億円/1米ドル=114円換算)出資する 。同出資によりデンソーは、JASMの10%超の株式を取得する事になる。(坂上 賢治)

 

 

ちなみにJASMへの出資に関しては、SSSが約5億米ドルの出資で20%未満の株式を取得する事を昨年11月9日に発表済。残り過半の株式はTSMCが保有する。

新工場は、菊陽町にあるソニーの半導体生産子会社、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの画像センサー工場に隣接する「第二原水工業団地(セミコンテクノパーク地区)」(約21・3ヘクタール)に建設される。

 

今年着工に入り、2024年末迄の稼働開始が予定されている。同工場では、回路線幅22~28ナノメートル(ナノは10億分の1)のロジック半導体を生産する他、12~16ナノメートルFinFET(駆動速度の向上が期待できる3次元トランジスタ)製造も担えるようJASMの能力強化も発表。

 

これらはソニーの画像センサー向けに使われる他、自動車向けへも供給想定しており、月間生産能力(300mmウエハー換算)も、当初発表の4万5000枚から5万5000枚に増強する予定としている。

 

 

なお同生産能力の増強に伴い、TSMCの設備投資総額は当初発表の約70億米ドルから約86億米ドル(約9800億円)に増額される見込み。TSMCは、既に同工場に於ける約1700人の増員に動き出しており、同工場に勤務するエンジニアの中途採用並びに大学新卒の募集が開始されている。
TSMCは、「日本の優れた半導体人材を活用しグローバルな半導体のエコシステムの成長に貢献。共にトランスポーテーションの未来に新たなイノベーションを起こす事ができる」としている。

 

一方、ソニーセミコンダクタソリューションズの清水照士社長兼CEOは、「世界的に半導体需要が伸びる事が予想される中、JASMが産業界全体のロジックウェーハの安定調達に寄与するものと期待している。また今回新たにデンソーが加わった事は大変喜ばしく、共にJASMの立ち上げをサポートしていきたい」とコメントした。

 

自動車の電動化や自動運転の普及を前提に、同新工場の大口顧客になると見込まれるデンソーの有馬浩二社長は、「自動運転や電動化といったモビリティのテクノロジー進化の中で、半導体は自動車業界に於いて、益々重要になっている。今回のTSMCとのパートナーシップにより、車載半導体の中長期的な安定調達を実現し、自動車産業全体に貢献していきたい」と話している。

 

デンソーの有馬浩二社長

 

TSMCが日本に大規模な半導体工場を建設するのは初。熊本県内への誘致企業に係る投資額としても過去最大規模。県は熊本空港周辺と菊陽町役場などを繋ぐ菊陽空港線を、北側へ1.3キロ延伸し、新工場が建設中のセミコンテクノパーク地区に繋げる変更案を検討中だ。

 

この取り組みを踏まえ日本の産業界は、自動車向けを筆頭に半導体の国内供給網を確保できる事になり、予てより危惧されていた経済安全保障の観点から、日本政府が期待する産業強化の枠組みが保全される事になりそうだ。

但し、現在TSMCが製造する半導体の内、どのプロセス技術で作る製品が収益を上げているかを見た場合、その実態は回路線幅5~7ナノメートル級が圧倒的な高収益源になっており、同プロセス技術が最も投資価値が高い。

 

対して旧プロセスとして枯れた技術ではあるが、様々な実用製品で今も使われ、今日も汎用用途で充分な性能を持つロジック半導体である22~28ナノメートル級の半導体製造は、例え単価は低くとも自動車などの汎用製品が大量に造られる地域であるなら、薄利を確保した上で国内産業の体力が奪われる事態を避けられる。

 

従って今後は、この取り組みを出発点に日本国内に於いて、自国の半導体産業を厚くし、更なる高みへと育て上げられるかに掛かっている。そうした意味で、日本の半導体産業復活への道程は容易ではない事は確かだ。

CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。