デンソーは、「あたかも一つ屋根の下にあるかのごとく」というコンセプトの下、世界130工場をIT、IoTの技術でつなぐ、Factory-IoTプラットフォームを開発した。
オープンソースソフトウエア(*1)を活用したクラウドネイティブ(*2)なプラットフォームの自社開発は業界初。今回開発したプラットフォームにより、工場の様々な機器から収集したデータを一つのクラウドに蓄積し、自由に活用できるようになると云う。
デンソーは、プラットフォーム開発にあたり、①社内のソフトウエア技術者が運用開始後も継続してプラットフォームを改善、進化させられること、②小さな試行を素早く繰り返すアジャイル開発でスピード感をもって開発できること、③開かれたプラットフォームとして社内外のパートナーとデータを共有でき、共に改善やアプリケーション開発を進められること、の3要素について重視。
その結果、既存のサービスを使うのではなく自社開発することとし、約2年間の開発期間を経て、昨年10月にその運用を開始。今後は順次、Factory-IoTプラットフォームに世界130工場を接続するとともに、使いこなすための教育や、アプリケーション開発者の育成も進めていくと云う。
これにより、デンソーは、各地の需要に合わせた生産変動などにも即座に対応できるグローバルな生産体制の強化や、作業者の動きや生産設備の稼働状況などのリアルタイムな分析を行い、また、積み重ねてきた物理的な改善活動に、現場のエンジニア自らがデジタルの力を取り入れることで、改善をさらに加速させていくとしている。
*1)オープンソースソフトウエア:無償で公開され、誰でも自由に使用できるソフトウエア。
*2)クラウドネイティブ:クラウドでの運用を前提にオープンソースソフトウエアで複数のアプリケーションを協調制御するシステム開発手法。
[開発者コメント]
ソフトウェアエンジニアとしてプラットフォームの設計、データ基盤開発を担当した生産技術部の黒田雄大氏は、以下のようにコメントしている。
「モノづくりの現場で生産技術の業務にあたる中で、『この手順は自動化できそう』、『IoTの力でもっと楽にできるはず『と感じることがあり、ソフトウエアで少しでも効率化させ、新しい楽しさを生み出したいという思いで今回のプロジェクトに参画しました。
ソフトウエアの内製にあたっては、クラウドの利用など初めての経験が多く、従来のメンバーだけでは理解しきれない部分がありましたが、社内外の専門家やMaaS分野に取り組む部署など、スキルも発想も多様な仲間が結集し、同じビジョンを共有することで乗り越えることができました。この過程では、技術者としての自己成長につながりましたし、多様なアイデアや意見を認め、尊重しながら進めるデンソーの風土が成功の鍵になったと思います。
製造業に対して、もしかするとルーティンワークの多い仕事というイメージを持たれるかもしれませんが、実はまだまだワクワクする領域が広がっています。これからは、製造部門の社員が簡単にアプリケーションの開発や、データ基盤を用いた分析をできるようにプラットフォームをアップデー卜していきたいと思います。モノづくりの面白さを最大化するために、ルーティン業務の圧縮と、新しい働き方の創出に貢献できればと思います」。
また、プラットフォームのシステム構想企画、活用促進・ユーザー満足度向上活動を担当した生産技術部の野木大輔氏は、以下のように話している。
「当初、アジャイル開発など近年のソフトウエア開発における世の中の潮流と、デンソーの工場システム開発の間のギャップに危機感を感じ始めていました。そこで、社外にも通用するソフトウエア技術を採用し、システム構築後もスピーディーに進化し使い続けることができるものにするため、システム構築と並行してそれらの技術に精通する人材を確保しなくてはならないという使命感を持って臨みました。
そして、従来の開発手法やパートナーありきではなく、若手メンバーが原動力となり勇気を持ってこれまでの常識を飛び出し、新たなパートナーと連携できたことが今回のポイントだと感じています。そのような前例のないチャレンジに対し、上司・役員が理解を示し、後押ししてもらえたこともプロジェクト推進には欠かせませんでした。
デンソーのモノづくりは『物』と『者(人)』と言われますが、今後ますます大きくなる『デジタル化』のニーズに対して、『デジタル化を使った問題解決のプロ』が世界中の工場で育ち、継続的にモノづくり基盤が強化されていくようなプラットフォームにしていきたいです。製造業がモノに対してもコトに対してもより一層クリエイティブな仕事になっていくための道具として、今回のプラットフォームが貢献できればと思います」。