ブリヂストン石橋秀一CEO
ブリヂストンが2月16日に発表した2020年12月期連結決算は、売上高にあたる売上収益が2兆9945億円(前期比14.6%減)、調整後営業利益が2229億円(同35.0%減)、当期純損益が233億円の赤字(前期は2401億円の黒字)だった。同社が最終赤字に転落するのは1951年12月期以来69年ぶり。併せて発表した中期事業計画では、生産拠点を約4割減らすことが明らかにされた。(経済ジャーナリスト・山田清志)
2021年12月期は増収増益の予想
オンラインで業績を説明した菱沼直樹CFOによると、第3四半期(7~9月)以降はヒト・モノの移動制限緩和、経済活動再開などの動きに伴って、トラック・バス用タイヤの需要は堅調に推移したが、第1~2四半期(1~6月)における新型コロナウイルス感染症の影響によるタイヤ需要の落ち込みをカバーできずに、最終赤字になったとのことだ。
地域別の業績について、日本は売上収益が7626億円(前期比17%減)で、調整後営業利益が646億円(同41%減)。米州は売上収益が1兆43079億円(同15%減)、調整後影響利益が1399億円(同24%減)。欧州・ロシア・中近東・インド・アフリカは売上収益が5643億円(同12%減)、調整後営業損益が176億円の赤字(前期は150億円の黒字)。中国・アジア・大洋州は売上収益が3946億円(同15%減)、調整後営業利益が246億円(同32%減)だった。すべての地域で乗用車とトラック・バス用タイヤの販売数量が前年を大きく下回り、大幅な減収減益となった。
ただ、第4四半期(10~12月)については、乗用車向けの新車用タイヤが前年同期比101%、トラック・バス向けの補修用タイヤが同108%と前年同期を上回るようになっている。特に乗用車向け新車用タイヤでは北米と欧州が伸びており、トラック・バス向けの補修用タイヤでは欧州以外すべての地域で前年同期より販売本数が増えている。
その流れは2021年に入ってからも続いていて、2021年12月期の連結業績見通しも売上収益が3兆100億円(前期比0.5%増)、調整後営業利益が2600億円(同16.6%増)、当期純利益が2610億円と、増収増益を見込む。自動車業界で問題になっている半導体不足については「第1四半期を中心に数十万本の影響は出ると思うが、年間ベースでは影響はない」と石橋秀一CEOは話す。
今年度から“攻めと挑戦”のステージへ
しかし、ブリヂストンの経営が1980年代後半の時のように岐路に立っているのは間違いない。その時は、日系自動車メーカーが相次いで北米に工場を建設し、ブリヂストンも北米への本格的な進出が求められていた。そこで、家入昭社長(当時)は米ファイアストンを買収して北米での拠点を得た。
「当社が日本のローカル企業として終わるか、グローバル企業になれるかの瀬戸際で、何としてもファイアストンを買収してグローバル企業の仲間入りをしたかった」と家入社長は役員応接室で強調していた。
そして今、ブリヂストンは“第3の創業”ということで、2020年を初年度としたビジョンを掲げている。それは「2050年にもサステナブルなソリューションカンパニーとして社会価値・顧客価値を持続的に提供している会社へ」というもので、その実現のために中長期事業戦略に取り組んでいる。
2月16日には21年から23年の3年間を実行期間とする新たな中期事業計画も発表された。「これまでは危機管理を中心として守りのフェーズだったが、今年からは稼ぐ力の再構築をベースに戦略的成長投資を本格的に開始する“攻めと挑戦”のステージに入る」と石橋CEOは強調。
コア事業(タイヤ事業)、成長事業(ソリューション事業)、探索事業(リサイクル、ソフトロボティクス事業など)からなる事業ポートフォリオで経営を推進し、3年間で7000億円の成長投資を行う。コア事業では、経費の構造改革、事業の再編、生産拠点の再編など進め、リソースの再配分をしてプレミアムビジネス戦略を強化する。
成長事業では、タイヤセントリックソリューションやモビリティソリューションなど、ソリューション事業の拡大とグローバル展開を実施。3年間で1000億円以上の増収を目指す。探索事業では、ブリヂストンのコアコンピタンスの活きる事業領域、コア事業・成長事業とのシナジーがある領域に絞って事業を進めていく。その典型がリサイクル、ソフトロボティクスというわけだが、それぞれ事業準備室を設置する。
プレミアム商品にフォーカスした経営を展開
質疑応答では、特に生産拠点の再編についての質問が相次いだ。というのも、世界にある約165の生産拠点を23年までに約4割も減らすからだ。その内訳はタイヤ関連が79、原材料が16、タイヤ以外の多角化事業が70だ。
「生産拠点の再編はセンシティブな問題なので、現時点では開示できない。しかるべき適切なタイミングで開示しようと考えている」と、石橋CEOはどの工場を閉鎖するか、どのくらいの人員を削減するかなど詳細については明らかにしなかった。いずれにしても、同社はプレミアム商品を押し出していく戦略を中期事業計画で打ち出しており、汎用品しかつくれない工場は再編の対象と言っていいだろう。
「高品質なものをつくることにより集中し、その生産能力を最大化していく方向にフォーカスしていきたい。当然、ある段階では生産拡大の投資も必要だと思っているが、それはプレミアム商品にフォーカスした投資だ。ミシュランとの競争については、タイヤの数量ではなく、質で勝負してナンバーワンを目指す」と石橋CEOは力説。2023年の数値目標を売上収益3兆3000億円(2020年度比10.2%増)、調整後営業利益4500億円(同101.9%増)、当期純利益2900億円(2020年は233億円の赤字)とした。