ブリヂストン、2020年を第三の創業年に。21年に中期事業画の発表へ
ブリヂストンは7月8日、「中長期事業戦略構想」を発表した。2020年を「第三の創業(ブリヂストン3・0)」と位置づけ、1931年の創業や88年の米ファイアストーン買収時に匹敵する事業改革に取り組む方針を示した。そこで柱に据えるのが、タイヤ・ゴム事業をコアにデジタルトランスフォーメーション(DX)を活用した「ソリューションカンパニーへの進化」だ。(佃モビリティ総研・松下次男)
変革の動きは加速する。タイヤ部門の収益性低下に大変な危機感を持っている
新たな戦略構想を策定した背景は、既存のタイヤ事業が収益性低下していることやモビリティ事業が大変革期に差し掛かっているためだ。石橋秀一代表執行役グローバルCEO(最高経営責任者)は戦略構想発表会見でタイヤ部門の収益性低下について「1社だけでなく業界全体の傾向。大変な危機感を持っている」と述べた。
新型コロナウイルス感染症の影響も重なる。移動制限など新型コロナの感染拡大はニューノーマルと呼ばれる新たな生活様式が求められており、社会や経済活動の「変革の動きは加速するだろう」との見方を示す。
唯一、タイヤのみが地面に接地し、移動手段となるモビリティ・クルマ分野はいま、「MaaS」「CASE」と呼ばれるサービス、技術の両面から大変革期を迎えている。
こうした中で、ブリヂストンはタイヤ・ゴム事業をベースとしながらも、従来型の経営から脱皮し、新たなソリューション事業を兼ね備えた事業形態へと進化する姿を描く。
DXを活用しソリューションカンパニーへの進化を目指すビジネスモデルへ
まずコアのタイヤ・ゴム事業では、高付加価値商品(プレミアム)を主体に、モノを“創って売る”事業を強化。高インチタイヤや再生タイヤ、冬用タイヤなどは依然、収益性は高く、これらを主体に展開するプレミアムチャネル戦略やソリューションネットワークを実現、整備する方針だ。
MaaSに代表されるモビリティ・サービス事業の変化は新車用、市販用タイヤの需要変動につながると判断。今後は、車両の使用頻度が増え、リプレイスタイヤの比率が高まることを予想。そこへ「断トツの商品」「断トツもサービスネットワーク」を提供できる体制を構築し、その強みを生かす。こうしたコア事業をベースに、DXを活用しソリューションカンパニーへの進化を目指すビジネスモデルが次なるステップだ。
タイヤ・ゴムには複雑な解析技術が存在する。同社はこれらのビッグデータを擁しており、そのデータを活用することで安全性や環境対策、経済性、生産性に役立つ。
実際に、タイヤモニタリングによる空気圧・温度データから、タイヤの摩耗、耐久性を予測し、適正なタイヤの保守、交換などを提案する。これにより、交通事故を防ぎ、燃費向上・CO2(二酸化炭素)排出量削減に寄与、提供先のトータルコスト削減につながる。
データの活用でシナジーの最大化を目指すソリューションビジネスユニットを設立
こうしたビジネスモデルの「タイヤセントリックソリューション」事業は世界的に急成長しており、グローバル営業利益率は約20%の高さという。すでに日本でトータル・パッケージ・プランを展開するほか、欧州でタイヤと車両メンテナンスが利用できるサブスクリプションモデルなどをスタートさせている。
さらに一歩進化させたのが「モビリティソリューション」として展開する領域だ。「ブリヂストンT&DPaaS」と名付けた独自のプラットフォームなどにより事業を推進するビジネスモデルで、タイヤ事業、タイヤデータ、さらにモビリティティデータを組み合わるとともに、独自のアルゴリズムを活用。提供先企業のバリューチェーン全体の最適化を実現するものだ。
欧州・オランダに、こうしたタイヤデータと車両データの活用・シナジーの最大化を目指す組織のモビリティソリューションビジネスユニットを設立。今後、グローバル展開を加速させる方針だ。
これらのビジネスモデルは航空機や鉱山分野ではすでに展開されており、自動車分野でもMaaSやコネクテッドの進展でこのようなモデルが進行すると予想。そこでは「BtoB」の企業間取引を主体に事業化が進むと見ており、先行する事業の知見、ノウハウがそこに生かせると判断。営業利益率も約25%と高水準を維持する。
イノベーション創造を目指すグローバル拠点として東京・小平の拠点を刷新へ
このように同社が描く中長期事業戦略構想はタイヤ・ゴム事業をコアに、タイヤセントリックソリューション事業、モビリティソリューション事業をレイア構造で進化させると一方で、それぞれソリューション分野で得られた知見を逆にタイヤ・ゴム事業にフィードバックし、価値の増幅を図る。
構想実行に当たり、グループ会社のブリヂストンタイヤジャパンの社名を「ブリヂストンタイヤソリューションジャパン」に変更し、コア事業の卸販売事業と成長事業のソリューション事業の二つのユニットに再編。東京・小平地区をイノベーションを通じて新たな価値創造を実現するグローバル拠点に再構築し、9月15日にリニューアルオープンする。
さらに実施的な実行計画の第一歩となる3か年の中期事業計画(2021~2023年度)を策定し、21年2月に発表する考えを明らかにした。
また、石橋CEOは生産拠点再編や商品戦略見直しも並行して進める方針を示し、生産拠点は5~10年のスパン、商品戦略は5年年程度のスパンに取り組むと述べた。
1931年に創業(ブリヂストン1・0)にしたブリヂストンは、1988年のファイアストーン買収を経てグローバル企業へと舵を切った。これを第二の創業(ブリヂストン2・0)と位置づけ、ブリヂストン3・0では「2050年を見据えたソリューションカンパニーへと進化」を目指す。
それをタイヤ・ゴム事業の強みを生かしながら進める考えだが、構想推進の核となるDX活用をめぐっては異業種を含めて競合が激しい。これをうまく取り込み、どう実現するかが注目される。