直接リサイクル手法の確立により貴重な原材料の循環が実現に向かう
独BMW AGは11月27(ドイツ・ミュンヘン発)、バイエルン州シュトラウビング=ボーゲン地区のキルヒロートに、バッテリーセルの「セルリサイクルコンピテンスセンター(CRCC)」を建設していることを明らかにした。
ここ新たな新拠点では〝ダイレクトリサイクル〟と呼ばれる先進的なバッテリーリサイクルのプロセスを実施していく予定だ。そのプロセスは、バッテリーセル製造からの残留材料やバッテリーセル全体を科学的では無く機械的に分解して、そこから価値あるコンポーネントを取り出す手法を採る。
機械的分解を経て回収された原材料は、その後、同社の独自技術を介して、バッテリーセルコンピテンスセンター(CRCC)に於いてバッテリーセルのパイロット生産工程に直接再利用される手順となる。
近似量産プロセスを用いたリサイクル方法の検証がいよいよ開始される
この取り組みについて、BMW AGでバッテリー製造担当SVP(senior vice-president/シニア・バイス・プレジデント)を務めるマルクス・ファルボーマー氏は、「新しいセルリサイクルコンピテンスセンター(CRCC)は、当社内に於ける専門知識の蓄積手段に於いて新たな視点をもたらすものとなります。
そもそも製品の開発過程を経てパイロット生産からリサイクル段階に至るまで、私たちはバッテリーセルに関してはクローズドループを構築しています。新しいセルリサイクルコンピテンスセンター(CRCC)は、バイエルンにあるコンピテンスセンター間との距離が近いことを優位に働かせ、そうしたクローズドループを実現させる拠点として機能させていきます。
なお既に我々BMWグループは、新しいコンピテンスセンターの建設に約1,000万ユーロを投資しており、当該の進行プロジェクトは2025年後半には開始される予定となっています。完了した暁には、近似量産プロセスを用いたリサイクル方法の検証がいよいよ開始されることになります。
直接リサイクルはバッテリーセルパイロットラインのコスト削減に役立つ
さて主に今日のバッテリーセルの原材料は、主にリチウムとコバルトとなっている訳ですが、同時にグラファイト、マンガン、ニッケル、銅も含まれていて、これがセル構成に係る大きなコスト要因のひとつとなっており、これらの関連資源を責任を持って使用・回収。処理できることは、環境と経済の両方の観点から踏まえて地域を支える自動車メーカーとしては不可欠な要素となります。
また直接リサイクルは、バッテリーセルパイロットラインのコスト削減にも役立ちます。それは従来の方法とは異なり直接リサイクルの場合は、バッテリーセルの原材料が科学的処理を経て元の状態に戻されるのではなく、セル生産サイクルに「直接」戻されるからです。つまり直接リサイクルは、これまで一般的だったエネルギーを大量に消費する化学処理や熱処理が不要になります。
このリサイクル方法は、ミュンヘンとパルスドルフのコンピテンスセンターのBMWグループの専門家によって開発されて、新しいセルリサイクルコンピテンスセンター(CRCC)では、それがより大規模に実装されることになります。従ってこの新たなプロセスが完成すると、年間10トン半ばのバッテリーセル材料を効率的にリサイクルできるようになります
しかも、これらの関連資源を責任を持って使用・回収。処理できることは、環境と経済の両方の観点から踏まえて地域を支える自動車メーカーとしては不可欠な要素となります。そうした意味で機械的な分解工程を経た直接リサイクルの手法は、バッテリーセルパイロットラインのコスト削減に役立ちます」と説明する。
バイエルン州の新しいコンピテンスセンターに最適な場所
元々BMWグループでは、ミュンヘンとパルスドルフのコンピテンスセンターでバッテリーセルの専門知識を蓄積・統合してきた。より具体的にはミュンヘン北部のバッテリーセルコンピテンスセンター(BCCC)が、次世代の高電圧バッテリー向けのバッテリーセル開発と、少量生産を担う最先端のラボと研究施設を提供してきた。
そんなBCCCで最も有望なバッテリーセル技術は、パルスドルフのセル製造コンピテンスセンター(CMCC)のパイロットラインで量産プロセス用にスケールアップされる。それが完了すると、パルスドルフでのパイロット生産からの余剰材料のリサイクルが、キルヒロートの新しいコンピテンスセンターで行われる仕組みだ。
また回収された原材料はパルスドルフでのセル生産に再利用される。この連携を完成させることにより、全てのコンピテンスセンター間の距離が短くなり、貴重な原材料が失われるのを防ぐことができる。つまり先のBCCCとCMCCに続き新たなCRCCは、循環型経済への道を歩むBMWグループのバッテリーセル戦略の次世代のステップを表すものとなる。
施設の運営はBMWとインターゼロとの合弁企業に委ねられる
そんな2,200 m²の総面積を有する新しいCRCCは、シュトラウビング近郊のキルヒロート=ノルド工業団地にある既存の建物の拡張部分として設けられる。放電された旧セルの電気エネルギーは建物内のエネルギー貯蔵システムに蓄えられ、建物の屋上に設置された太陽光発電システムと統合させることで新たなリサイクルシステムの稼働に使用される仕組みだ。
なお上記の直接リサイクル手法に係る一連の知的財産はBMWグループ自らで保有しつつ、新たなセルリサイクルコンピテンスセンター(CRCC)の建設と運営は、先の2016年に廃棄物処理を主業務として担うインターゼロGmbH(Interzero Holding GmbH)とBMW AGの合弁(折半出資)で設立したエンコリーGmbH(Encory GmbH)によって建設・運営される。なおこのエンコリーGmbHは、BMWグループ傘下に係る車両部品の収集、リサイクル、再製造分野を担うために設立された。
もとよりBMW AGは、考え直す、減らす、使う、循環させる(Re:Think、Re:Duce、Re:Use、Re:Cycle) の資源循環の原則を貫き、資源効率性の高い車両を設計し、それを生産・提供・回収・資源効率を高めていくことを循環型経済の確立のための最も重要な使命と見なしており、それには材料循環の仕組みを最適化させていくことが近道であると考えているという。
またそのためには、車両の設計・製造からリサイクル、更に再利用に至るまで、自動車産業全域で完全な資源循環が確立できるよう取り組んでおり、なかでもリサイクル領域に於いては、特にEVから高電圧バッテリーの資源を、効率的に回収・再利用する革新的な技術を確立するべく鋭意、技術を磨き続けている。それは地球上で無駄に資源が浪費されるのではなく、長期的にその資源価値が維持され続けていくことを意味するのだと結んでいる。