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2024年11月28日【ESG】

BMWグループ、化学処理を伴わない蓄電池リサイクルの実践へ

坂上 賢治

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直接リサイクル手法の確立により貴重な原材料の循環が実現に向かう

 

独BMW AGは11月27(ドイツ・ミュンヘン発)、バイエルン州シュトラウビング=ボーゲン地区のキルヒロートに、バッテリーセルの「セルリサイクルコンピテンスセンター(CRCC)」を建設していることを明らかにした。

 

ここ新たな新拠点では〝ダイレクトリサイクル〟と呼ばれる先進的なバッテリーリサイクルのプロセスを実施していく予定だ。そのプロセスは、バッテリーセル製造からの残留材料やバッテリーセル全体を科学的では無く機械的に分解して、そこから価値あるコンポーネントを取り出す手法を採る。

 

機械的分解を経て回収された原材料は、その後、同社の独自技術を介して、バッテリーセルコンピテンスセンター(CRCC)に於いてバッテリーセルのパイロット生産工程に直接再利用される手順となる。

 

 

近似量産プロセスを用いたリサイクル方法の検証がいよいよ開始される

 

この取り組みについて、BMW AGでバッテリー製造担当SVP(senior vice-president/シニア・バイス・プレジデント)を務めるマルクス・ファルボーマー氏は、「新しいセルリサイクルコンピテンスセンター(CRCC)は、当社内に於ける専門知識の蓄積手段に於いて新たな視点をもたらすものとなります。

 

そもそも製品の開発過程を経てパイロット生産からリサイクル段階に至るまで、私たちはバッテリーセルに関してはクローズドループを構築しています。新しいセルリサイクルコンピテンスセンター(CRCC)は、バイエルンにあるコンピテンスセンター間との距離が近いことを優位に働かせ、そうしたクローズドループを実現させる拠点として機能させていきます。

 

なお既に我々BMWグループは、新しいコンピテンスセンターの建設に約1,000万ユーロを投資しており、当該の進行プロジェクトは2025年後半には開始される予定となっています。完了した暁には、近似量産プロセスを用いたリサイクル方法の検証がいよいよ開始されることになります。

 

直接リサイクルはバッテリーセルパイロットラインのコスト削減に役立つ

 

さて主に今日のバッテリーセルの原材料は、主にリチウムとコバルトとなっている訳ですが、同時にグラファイト、マンガン、ニッケル、銅も含まれていて、これがセル構成に係る大きなコスト要因のひとつとなっており、これらの関連資源を責任を持って使用・回収。処理できることは、環境と経済の両方の観点から踏まえて地域を支える自動車メーカーとしては不可欠な要素となります。

 

 

また直接リサイクルは、バッテリーセルパイロットラインのコスト削減にも役立ちます。それは従来の方法とは異なり直接リサイクルの場合は、バッテリーセルの原材料が科学的処理を経て元の状態に戻されるのではなく、セル生産サイクルに「直接」戻されるからです。つまり直接リサイクルは、これまで一般的だったエネルギーを大量に消費する化学処理や熱処理が不要になります。

 

このリサイクル方法は、ミュンヘンとパルスドルフのコンピテンスセンターのBMWグループの専門家によって開発されて、新しいセルリサイクルコンピテンスセンター(CRCC)では、それがより大規模に実装されることになります。従ってこの新たなプロセスが完成すると、年間10トン半ばのバッテリーセル材料を効率的にリサイクルできるようになります

 

しかも、これらの関連資源を責任を持って使用・回収。処理できることは、環境と経済の両方の観点から踏まえて地域を支える自動車メーカーとしては不可欠な要素となります。そうした意味で機械的な分解工程を経た直接リサイクルの手法は、バッテリーセルパイロットラインのコスト削減に役立ちます」と説明する。

 

バイエルン州の新しいコンピテンスセンターに最適な場所

 

元々BMWグループでは、ミュンヘンとパルスドルフのコンピテンスセンターでバッテリーセルの専門知識を蓄積・統合してきた。より具体的にはミュンヘン北部のバッテリーセルコンピテンスセンター(BCCC)が、次世代の高電圧バッテリー向けのバッテリーセル開発と、少量生産を担う最先端のラボと研究施設を提供してきた。

 

そんなBCCCで最も有望なバッテリーセル技術は、パルスドルフのセル製造コンピテンスセンター(CMCC)のパイロットラインで量産プロセス用にスケールアップされる。それが完了すると、パルスドルフでのパイロット生産からの余剰材料のリサイクルが、キルヒロートの新しいコンピテンスセンターで行われる仕組みだ。

 

 

また回収された原材料はパルスドルフでのセル生産に再利用される。この連携を完成させることにより、全てのコンピテンスセンター間の距離が短くなり、貴重な原材料が失われるのを防ぐことができる。つまり先のBCCCとCMCCに続き新たなCRCCは、循環型経済への道を歩むBMWグループのバッテリーセル戦略の次世代のステップを表すものとなる。

 

施設の運営はBMWとインターゼロとの合弁企業に委ねられる

 

そんな2,200 m²の総面積を有する新しいCRCCは、シュトラウビング近郊のキルヒロート=ノルド工業団地にある既存の建物の拡張部分として設けられる。放電された旧セルの電気エネルギーは建物内のエネルギー貯蔵システムに蓄えられ、建物の屋上に設置された太陽光発電システムと統合させることで新たなリサイクルシステムの稼働に使用される仕組みだ。

 

なお上記の直接リサイクル手法に係る一連の知的財産はBMWグループ自らで保有しつつ、新たなセルリサイクルコンピテンスセンター(CRCC)の建設と運営は、先の2016年に廃棄物処理を主業務として担うインターゼロGmbH(Interzero Holding GmbH)とBMW AGの合弁(折半出資)で設立したエンコリーGmbH(Encory GmbH)によって建設・運営される。なおこのンコリーGmbHは、BMWグループ傘下に係る車両部品の収集、リサイクル、再製造分野を担うために設立された。

 

もとよりBMW AGは、考え直す、減らす、使う、循環させる(Re:Think、Re:Duce、Re:Use、Re:Cycle) の資源循環の原則を貫き、資源効率性の高い車両を設計し、それを生産・提供・回収・資源効率を高めていくことを循環型経済の確立のための最も重要な使命と見なしており、それには材料循環の仕組みを最適化させていくことが近道であると考えているという。

 

またそのためには、車両の設計・製造からリサイクル、更に再利用に至るまで、自動車産業全域で完全な資源循環が確立できるよう取り組んでおり、なかでもリサイクル領域に於いては、特にEVから高電圧バッテリーの資源を、効率的に回収・再利用する革新的な技術を確立するべく鋭意、技術を磨き続けている。それは地球上で無駄に資源が浪費されるのではなく、長期的にその資源価値が維持され続けていくことを意味するのだと結んでいる。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。