帝人(本社:大阪市北区、社長:鈴木 純)は7月21日、自社の炭素繊維「テナックス」を使用した中間材料が、エアバス(Airbus、本社:フランス トゥールーズ市、最高経営責任者:ギヨム・フォーリ、以下、エアバス)の主力旅客機A320neoの主翼スポイラーの部材として採用されたと発表した。(坂上 賢治)
採用に至った炭素繊維中間材料は「ノンクリンプクロス<樹脂などでの目止め処理加工>のテナックスDRNF(テナックスDry Reinforcements Non-CrimpFabrics)と「組紐のテナックスDRBF(テナックス DryReinforcements Braided Fibers)の2素材。同素材は、安定した炭素繊維製品として30 年以上の供給実績と品質優位性を持ち、永らくエアバのストップサプライヤーとしての地位を確保している。
今回はA320neo向けに出荷したテナックスDRNFとテナックスDRBFは、著名な航空機向け構造部材メーカーであるスピリット・エアロシステムズ(Spirit AeroSystems, Inc.、本社:米国 カンザス州ウィチタ、社長:トム・ジェントル)の英国 スコットランド サウス・エアシャー州所在のプレストウィック工場で主翼スポイラーとして成形される。
ちなみにこのテナックスDRNFというのは、広い意味では炭素繊維の束を一方向に並べてシート状にし、これを角度をずらせて積み重ねてバラバラに分かれないようにポリエステルやナイロンなどの糸で縫い付けた炭素素材の織物である「NCF」の一種だ。
こうしたNCFは、そもそも表面が滑らかに仕上がることから、母材となる樹脂がシート上で均一に浸透しやすく、従来の航空機向け高性能熱硬化プリプレグ(揃えた繊維に熱可塑樹脂を予め含浸させた中間材料)と同等の性質を持つ等の特長がある。
一方テナックスDRBFは、このようなNCFとは構造が異なり、炭素繊維原糸を三つ編み構造の組紐状にしたものであるからNCFに比べ高い伸縮性がある。そのためシート状中間材料から成る複合材料製の航空機部品で生じがちな隙間を充填するように埋めるフィラー材としての役割を果たす。
またテナックスDRNFとテナックスDRBFを組み合わせたCFRP(炭素繊維複合材料)製スポイラーは、金型の中に炭素繊維シートを配置した後に樹脂を注入して硬化させるRTM(Resin Transfer Molding)成形で作られるため(現行プリウス・プラグインハイブリッドのリアハッチと同種の成形方法)、従来のオートクレーブ(大型の釜を用いた堅化)成形に比べ、生産性やコスト効率などが優れている点も今回、採用に至った大きな理由となった。
帝人では2020年度からの新・中期経営計画で、航空機向け炭素繊維中間材料の展開を〝将来の収益源育成(Strategic Focus)〟と位置づけ、高強度高弾性率炭素繊維や熱可塑性樹脂を使用した一方向性プリプレグテープを筆頭に炭素繊維強化熱可塑性樹脂積層板、熱硬化性プリプレグなどを製造・提供することで、航空機向け炭素繊維製品のマーケットリーダーとしての立ち位置を確かなものとしており、同社は「ソリューション提案力を一層強化し、2030 年近傍までに航空機用途で年間 900 百万米ドル超の売上を目指します」と話している。