ボッシュは6月17日、年次記者会見を開催し、2020年度の実績や今後の見通しについて発表を行った。
それによると、2020年度の日本国内における第三者連結売上高は、2,690億円(約22億ユーロ)。売上高においてはコロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の影響を大きく受けたものの、EBIT(支払金利前税引前利益)では黒字を達成している。年の後半にビジネスが持ち直したことで、2020年当初の予測を上回る業績をあげたことになる。
2021年の業績見通しに関しては、売上高は前年比2桁増になると見込んでいるとのこと。2021年第一四半期(1月~3月)の売上高は好調なスタートを切切ったものの、コロナウイルスやワクチン供給の遅れ、世界的な半導体不足という状況が、本年度の業績に影響を与える可能性もある。
ボッシュ取締役社長のクラウス・メーダー氏は年次記者会見において以下のように述べている。
「現在の状況から、日本においても厳しい1年となることが予想されますが、長期的な可能性を有する日本の自動車市場に引き続き貢献していきます。今後も、当社のスローガンであるInvented for lifeを掲げて日本におけるポートフォリオの更なる拡大を図り、人々や生活に役立つ革新的な技術を提供します」
なお、日本におけるボッシュ・グループの従業員数は、2020年12月31日現在、6,500名となる。
◾️110年におよぶ日本の自動車市場への貢献
コロナウイルスの世界的流行という状況下においても、日本の自動車メーカーは世界自動車生産台数において30%のシェアを占め、市場での強い存在感を示している。ボッシュでは、今後10年にわたって、日本の自動車メーカーが同水準を維持すると予測した。2021年は、ボッシュが日本で事業を開始してから110周年にあたる年。同社の取締役副社長を務めるクリスチャン・メッカー氏は「当社は今後も、変革期において魅力あふれるクルマ作りを国内外で追及する日本の自動車メーカーを、全力で支援してまいります」と語った。
◾️日本市場へのコミットメントを示す日本での製造開始
日本市場への強いコミットメントを示す一例として、ボッシュは2022年後半から日本で電動ブレーキブースター「iBooster」の製造を開始することを年次記者会見にて発表している。iBoosterは、無負圧への対応、ペダルフィーリングのカスタマイズ、衝突被害軽減ブレーキの性能向上、そして自動運転下における冗長性など、高性能なブレーキ機能を実現する現代のブレーキシステム。ボッシュでは、電動ブレーキブースター市場が、今後2027年まで年率20%以上で拡大すると予測している。また、上記のiBoosterの主な利点は、自動化および電動化に対する先進的な取り組みを進める日本の自動車メーカーとの親和性が高いとボッシュでは捉えており、日本でiBoosterの製造を開始することで、他のグローバル製造拠点に加え、国内においても、ものづくりの文化の浸透している日本の自動車メーカーからの要望に対応することが可能となる形だ。
加えて、日本の自動車メーカーの小型車への要望に対応した派生製品iBooster Compactの開発を進めている。量産開始は2022年の予定で、現在、複数の自動車メーカーとの導入の検討を進めているとのことだ。なお、iBooster Compactも日本での製造を予定。
iBoosterの搭載車両の増加に伴い、より多くの車両が緊急時に迅速に停止できるようになることから、より安全な道路環境につながると同社では期待。次世代の主力製品となるiBoosterの日本での製造開始にあたり、30億円の製造設備投資が予定されているとのことだ。
◾️クライメートニュートラルおよびeモビリティでサステイナブルに発展
同社ではクライメートアクションに関する独自の目標に向かって計画を進めている。2020年春には、ボッシュ・グループの世界中の400以上の拠点でクライメートニュートラル認証を受け、既に独立機関からの認証も受けている。その結果、ボッシュは日本の拠点も含め、CO2を排出しない、世界初の事業会社となっている。
ボッシュは、2030年までにサプライヤーから顧客に至るバリューチェーン全体で、2018年比でCO2排出量の15%にあたる6,700万トンの削減を表明している。また、固体酸化物燃料電池(SOFC)を含む、水素から熱や電力を生産する新しいアプローチにも取り組んでおり、ドイツでのSOFCパイロットプラントの稼働に続き、日本でも2020年に専門チームを立ち上げ、日本市場での開拓の可能性を調査しているという。なお、SOFCのデモ機が渋谷本社のショールームに展示中だ(2021年9月上旬まで展示予定)。
また、ボッシュはeモビリティにおける将来のパワートレインの準備を進めており、2021年だけで7億ユーロをeモビリティに投資する予定。なお、これまでの累計投資金額は、50億ユーロに達している。同社では、電力のみで走行する電気自動車(EV)に限定せず幅広いアプローチを取っている。これには、EVやハイブリッド車、燃料電池車向けの新しいパワートレインコンポーネントの開発、内燃機関における効率性向上や、eFuelと呼ばれる合成燃料の使用なども含まれるという。
◾️AIoT先進企業への成長
ボッシュは戦略的な目標として掲げる“Invented for life” のもと、グローバルな技術およびサービスサプライヤーとしての地位向上に努めている。新技術のひとつとして挙げられるのが、ボッシュのビルディングテクノロジー部門がコロナウイルス対策として開発した、「People Counting(ピープル・カウント)」だ。2020年11月、ボッシュセキュリティシステムズはPhilipsと共同で、ボッシュのピープル・カウントと、Philipsのデジタルサイネージ用ディスプレイを組み合わせた「People Counting Visualization System(ピープル カウント ソリューション)」を日本市場に投入している。ピープル カウント ソリューションは、ボッシュのインテリジェント監視カメラを用いて特定のエリアに出入りする人数をカウントし、事前に設定した一定の人数を超えた場合、Philipsのデジタルサイネージ上で警告表示を出す仕組み。このソリューションの提供により、ショッピングモールや空港などの施設側がコロナウイルス対策として密となる状況を回避し、ソーシャルディスタンスの確保が支援される。
ボッシュではまた、モノのインターネット(IoT)と人工知能(AI)を組み合わせたAIoTが、数十億ユーロ規模の市場で成長の機会をもたらすと考えているという。実際、ボッシュは既にAIoT先進プロバイダーへとなりつつある。ネットワーク対応の電動工具、家電製品、ヒーティングシステムを約1,000万台販売しており、アクティブユーザーの数は増加傾向にある。遅くとも2025年には、ボッシュのいずれの製品にも、AIが備わるか、または開発や製造の過程でAIを活用することを目指しているとしており、消費者向け製品に対応するAIセンサーのみならず、AIは製造においても有益であることを確認したとしている。例えば、2021年中に約50のパワートレイン工場に、製造工程の早い段階で異常や不具合を検知するAIベースのシステムを繋げる予定。これにより、工場はより効率的、生産的かつ環境に優しくなるとともに、より高品質な製品の製造が可能となるという。
◾️世界のボッシュ・グループ:2021年の展望と長期的な戦略の方向性
ボッシュ・グループは、コロナウイルスのパンデミックの影響を受けながらも2020年の業績は黒字を達成し、2021年第一四半期も好調なスタートを切った。「ボッシュはコロナウイルスのパンデミック1年目を見事に乗り切りました」と、ロバート・ボッシュGmbH取締役会会長のフォルクマル・デナー氏は述べている。しかしながら同社では、2021年も主にコロナウイルスのパンデミックにより、厳しい1年となることを予想しているようだ。
それに対する取り組みとして、技術や環境の大きな変化を背景に新たなビジネスチャンスを開拓するために、モノのインターネット(IoT)と人工知能(AI)を組み合わせ、eモビリティに注力しているという。「eモビリティへの移行において勝者となった企業のひとつと言っても過言ではなく、AIを活用することでソフトウェア事業のさらなる大幅な拡大を図っています」と、同社のデナー氏は述べている。