NEXT MOBILITY

MENU

2024年6月3日【CASE】

ゼンリン他、交通&生活価値を高める「秩父モデル」を始動

坂上 賢治

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

共同配送のイメージ(おむす便スタッフに荷物を受け渡す様子)

 

秩父市生活交通・物流融合推進協議会は6月3日、秩父市の山間地域に於けるヒトとモノの移動の困難さを改善するべく新物流・公共交通ネットワーク「秩父モデル」を構築し、3つの地域支援サービスを始動させる。

 

 

ちなみに秩父市生活交通・物流融合推進協議会とは、早稲田大学の小野田弘士教授を会長に、秩父市、ゼンリン三菱総合研究所西武ホールディングス西武鉄道西武観光バスアズコムデータセキュリティオプナス、早稲田大学、東京電力パワーグリッド本庄早稲田国際リサーチパークヤマト運輸佐川急便日本郵便栃ふさヒトツムギNEXT DELIVERYちちぶ結いまちの18者で2020年11月6日に設立したSociety5.0( ビッグデータ解析技術などにより社会課題の解決目指す取り組み )を標榜する組織。

 

当該協議会では、物流、生活交通、観光交通、医療などの多様な課題解決に向け、「ドローン物流」「遠隔医療」「MaaS」を最適・効率化し、地域に根ざした社会事業の構築を目指す。そこで上記を踏まえ同協議会は同日より、(1)共同配送サービス、(2)遠隔医療サービス、(3)ダッシュボードシステムの提供を介した社会事業を「秩父モデル」と銘打ち、総合サービスの提供を開始する。

 

 

今回、「秩父モデル」提供に至った経緯は、同市が都市部へのアクセス性も優れ豊かな文化も包括する地域でありながらも多くの山間地域を持つところにある。

 

実際、山間地域では人口流出による住民の高齢化が進んだことで、生活交通・物流などの生活インフラの維持が課題として浮上。加えて先の協議会が、去る2020年7月に内閣府の未来技術社会実装事業の採択を受け、今日に於いても関係府省庁による総合的な支援を受けていることから、官民一体で、これらの課題解決に取り組むことになった。

 

 

社会事業「秩父モデル」の3つ総合サービスは以下の通り

 

—————————————

 

(1)共同配送サービス:「おむす便」( 大滝地域 )
物流事業者3社の荷物を一旦集約。これを地域の事業者が個々の自宅まで配送するサービス。山間地域に於けるト ラックの積載率低下、環境への負荷といった全国的な物流問題に対し、配送の効率を向上させる新たな物流モデルとなる。より具体的には、協議会構成員の3社のヤマト運輸、西濃運輸、 福山通運の荷物を集約・配送する「おむす便」を6月3日から開始する。なお「おむす便」の名前の由来には、「想いを結んで運びます」という事業ビジョンが込められた。

 

 

共同配送サービス実施の背景

協議会では秩父市の山間地域でのトラック1台当たりの積載量の少なさに着目。2022 年9月に物流事業者各社の荷物をヤマト運輸が配達する共同配送のプレサービスを実施。この結果を踏まえ、ラストマイル配送を地域の事業者が担う新たな物流モデルを構築した。

 

 

サービス運営の流れ

(手順1)

  • 物流事業者が、自社の大滝地域宛ての荷物を「ヤマト運輸 影森営業所」に運ぶ。

 

(手順2)

  • 地域の事業者「栃ふさ」が「ヤマト運輸 影森営業所」で各社の荷物を受け取る。

 

(手順3)

  • 荷物を積み込んだ「栃ふさ」の車両で、大滝地域の各自宅まで荷物を配送する。

 

 

各者の役割/参加事業者

  • 物流事業者:ヤマト運輸/西濃運輸/福山通運の地域事業者
  • ラストマイル配送:栃ふさ サービス
  • 全体統括:ゼンリン

 

当該対象/取扱商品
普通便・クール便・代引き(現金のみ)・着払い (3辺合計200 cm以内、25キロまで)
今後の展望では、物流事業者各社の荷物に加え、ベルク等の小売事業者とも連携した買い物支援サービスを展開予定。また今回の共同配送スキームを活用した新たなビジネスの検討も引き続き推進していく。

 

—————————————

 

(2)遠隔医療サービス:「そばいる」( 大滝地域 )
医療機関へのアクセスに課題をかかえる大滝地域の患者に対して「患者への医療提供機会の維持」や 「訪問業務における医療従事者の移動時間効率化」を図るべく、2021年より遠隔医療の実証実験を重ね、2024年6月3日 (月)から、「オンラ イン栄養指導」、「D to P with N」、「オンライン受診相談」の3つの遠隔医療サービスを展開する。

 

 

遠隔医療サービスの導入に至った背景は、大滝地域の広大かつ山間地特有の起伏に富んだ地理的特性と、住民の高齢化、将来に於いて適切な医療体制の維持が困難になることが想定されているため。

 

 

具体的なサービス内容

(サービス1)オンライン栄養指導<そばいる栄養指導:テレビ電話型 栄養指導>

  • 大滝地域の住民が栄養指導を受けるには、管理栄養士の所属する「秩父市立病院」で受診する必要があるため、移 動が困難な方は受診が困難なケースが発生。そこで大滝地域の診療所と「秩父市立病院」をオンラインで繋ぎ、患者が地域の診療所でも栄養指導を受診できる体制を構築した。

 

(サービス2)D to P with N(Doctor to Patient with Nurse<そばいる訪問診療 :看護師訪問型テレビ電話診療>

  • 大滝地域では「体調は安定しているものの、足腰が悪く通院が困難」な患者の増加が予想される。これまでは訪問診療で対応してきたが、山間地の大滝地域内への移動には時間を要すことから、多くの件数を訪問できない。そこで診察の効率化を目指して看護師が患者宅を訪問し、オンラインで診療所の医師と繋ぎ、診療を行う「D to P with N」の体制を構築した。

 

 

(サービス3)オンライン受診相談<そばいる安心相談:テレビ電話型 受診相談>

  • 患者自身の端末と診療所のタブレットを繋ぐことで身体の不調を相談できる「オンライン受診相談」の体制を構築した。緊急時の相談窓口として利用できる仕組みとした。

 

各者の役割

  • 全体責任者、庁内関係部署・外部関係機関との調整 各遠隔医療サービスの運用フローの検討、必要手続きの実施、書類等の準備 オンライン栄養指導の運用フローの検討、必要手続きの実施、書類等の準備 会議体の運営、各種調査などある。

 

今後の展望

  • 患者・医療従事者双方からの意見を得つつ、地域に適した医療サービスとなるように努めていく。また遠隔医療サービスの受診者数など個人情報に該当しない範囲でデータを収集し、今後の行政サービスの検討に役立てていく。

 

—————————————

 

【市民向け】 秩父市ダッシュボード( Chichibu City Dashboard

 

(3)ダッシュボードシステムの提供:( 対象地域の市民向け/行政向け )
交通、気象、環境、イベント等の地域の様々な情報を、WEB 上にてリアルタイムで発信する「秩父市ダッシュボード」と、 各種事業で収集したビッグデータとオープンデータを組み合わせることで、事業分析や行政業務の効率化を可能にする 「ZENRIN Local Area Insight」の実運用を展開する。

 

より具体的には、秩父市内の移動・行動を支援するWeb サイト「秩父市ダッシュボード(Chichibu City Dashboard)」と、 各種事業等で収集したビッグデータ、更にオープンデータを組み合わせることで事業分析や行政業務の効率化を可能にしていくべく、6月3日(月)から運用を開始する。

 

秩父市ダッシュボードでは、秩父市内の交通情報や気象情報、イベン ト情報等を一覧性が高い「ダッシュボード形式」で提供する。これらは秩父市民 の市内での移動手段や行動予定の検討に利用できる他、観光客の効率的な移動にも活用できるようにし、秩父市の魅力をより実感できる観光体験の提供にも寄与していく構え。

 

また将来的には、行政サービスをワンストップで提供するポータルサイトとして発展させていくことも目指す。更にポータルサイトから得られる市民や観光客の活動状況のデータから、市の行政施策の立案の検討材料として 活用することも想定している。

 

確認できる情報(一部)
交通:鉄道・路線バスの運行情報 / 道路交通情報 / 主要駐車場満空情報 / 路面カメラ情報など。

 

気象:天気予報 / 警報注意情報 / 大気の状態など。

 

環境:電力消費量 / 地域情報( 秩父市公式 X アカウントの投稿内容 ) / イベント開催情報 / Well-being指標など。

 

—————————————

 

【行政向け】ZENRIN Local Area Insight

 

「ZENRIN Local Area Insight」は、行政や地域内で提供されるサービスから得られる情報を収集・分析・可視化し、事業評価指標(KPI)の進捗確認や各種行政計画立案の基礎情報として活用できるツールとした。観光 MaaS、AI デマンドタクシーなどの秩父市で導入済みのサービスや、今後導入予定の事業・サービスとも連携を広げていく予定。また今後は、新たな行政発信のデジタルサービスや、秩父市の各種行政データを随時ダッシュボードシステムへと組み込み、より幅広い範囲で秩父市の現状を分析・可視化できるツールとして構築を進めていく。

CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。