損害保険ジャパンは5月18日、アイサンテクノロジーおよびティアフォーと共同で、安心・安全な自動運転走行を支援するインシュアテックソリューションとして「自動運転向けデジタルリスクアセスメント」を新たに開発し、5月から提供すると発表した。
損保ジャパン、アイサンテクノロジーおよびティアフォーの3社では、社会課題解決への期待が高いとされる、自動運転が社会実装される世界を目指して、2019年2月から自動運転向けインシュアテックソリューション「Level Ⅳ Discovery(レベルフォーディスカバリー)」の開発が進められてきた。インシュアテックソリューションとは「走行前の事故予防」・「走行中の見守り」・「万が一の事故への備え」と、自動運転走行を安心・安全面で総合的にサポートするソリューションを指す。
今回3社は、これらのソリューションのひとつである自動走行前の事故予防を支援するリスクアセスメントに、先端の自動運転技術を取り込んだデジタルソリューションとして提供を開始する。まずは、国が進める未来技術社会実装事業として選定された奈良県三郷町へ提供し、その後、全国各地の自動運転実証への提供を進めていくとのことだ。
1.開発の背景
自動運転技術が日進月歩で進化していく状況下で、事故への対策は、安心・安全な自動運転社会を実現するうえで欠かせないものとなっている。
自動運転車の走行に関するリスクは、センサーの誤検知といった自動運転ならではの技術的なリスク、サイバー攻撃によって引き起こされるサイバーリスク、自動運転車のテストドライバーによる操作過誤などの運用上のリスク、走行環境により引き起こされるリスク、関係者の認識不足による法令やガイドラインへの抵触リスクなど多岐にわたる。
これらのリスクを網羅的に把握し、事故を未然に防ぐ対策を支援すべく、3社では「Level Ⅳ Discovery」のサービスとして、これまで数多くの自治体や事業者にリスクアセスメントを提供し、安心・安全を最優先とした自動運転実証実験を支援してきた。
さらに昨今、AIやロボットなどテクノロジーが社会へ浸透していくなかで、事前の事故予防対策としてリスクアセスメントへのさらなる期待が高まるとともに、評価の定量化や評価に要する時間の短期化が求められている。
今回提供が始まる「自動運転向けデジタルリスクアセスメント」は、損保ジャパンの事故データや事故対応ノウハウに、アイサンテクノロジーの高精度3次元地図技術およびティアフォーの自動運転システム開発力という自動運転最先端技術の強みを融合して開発された。
これにより、リスク評価の定量化や提供のスピード化を可能とし、自動運転走行に向けた安全性と効率性を高め、自動運転の社会実装を後押しする役割を果たすようになると期待されている。
同リスクアセスメントの内容は以下の通り。
2.「自動運転向けデジタルリスクアセスメント」の主なメニュー
(1)MMS(モービルマッピングシステム)による走行ルート調査
周辺の3次元座標データと連続映像を取得する車両搭載型・移動計測装置であるMMS(モービルマッピングシステム)で取得した、高精度3次元地図を生成するための点群データから、デジタルシミュレーションを行い、自動走行の危険度合いを解析。
(2)自動運転システムによる自車位置推定の精度調査
走行ルートの観測データをもとに、GNSSシステム(全球測位衛星システム)を用いた精度評価を行い、自車位置の精度判定を行う。自動運転システムの自車位置推定には、3次元地図とLiDAR情報とを統合させるスキャンマッチング技術等を利用し、GNSSシステム搭載の場合においてもそれら技術を複合させた結果により自動走行の自車位置推定結果を導く。
(3)通信環境調査
走行ルートを網羅する通信環境状態を調査する。
(4)走行シミュレータによる危険回避調査
走行シミュレータ(※名古屋大学・名城大学・ティアフォー・マップフォー・アイサンテクノロジー共同開発によるプログラム)を利用し、実際の走行ルートに近づけた自車位置推定調査に必要な環境を再現。そこで得たデータを自動運転オープンソースソフトウェア「Autoware」のシステムに反映することで、自車位置推定調査や走行時における危険予測を評価する。
(5)走行ルートにおける過去の事故データを活用したリスク調査
損保ジャパンが保有する過去の事故情報や危険運転情報などを活用し、ルート上の危険な場所を可視化。さらに、なぜその場所で事故が起きたのか因果関係まで深掘りすることで、リスクが発生するシナリオを明確化し、リスクの類型化を行う。
(6)ガイドライン等の適合確認、報告書等作成支援
自動運転の社会実装に向けた課題提言や報告書類などを作成する。
3.今後の展開
現在、自動運転普及期での同ソリューションの提供機会拡大を見据え、三社では国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)の支援も受けながら名古屋大学およびHuman Dataware Lab.と共に「AI技術を取り込んだ自動運転向けデジタルリスクアセスメント」の研究開発も進められている。
なお、この研究開発はNEDO事業「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」の支援を受け、名古屋大学が進める「判断根拠を言語化する人工知能の研究開発」において、名古屋大学から損保ジャパンが事業主体として再委託された事業となる。