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2024年4月15日【アフター市場】

三菱ふそうトラック・バス、バス運行のサポート事業に意欲

松下次男

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三菱ふそうトラック・バス(MFTBC)はバスドライバーへの人材派遣の検討を開始した。バス事業者のドライバー不足が懸念されているのに加え、2024年4月からドライバーの稼働時間の上限規制が始まったのに対応し、バス事業者をサポートする新規事業として取り組む方針。
報道陣を対象に、4月15日開催した「バス事業に関するラウンドテーブル」でこうした取り組みを明らかにした。(佃モビリティ総研・松下次男)

 

ランドテーブルでは、MFTBCのバス事業の概要とコロナ禍前後の活動を高羅克人MFTBCバス事業本部長と藤岡佳一郎三菱ふそうバス製造社長が説明、紹介した。

 

写真向かって左側が高羅克人MFTBCバス事業本部長、右側は藤岡佳一郎三菱ふそうバス製造社長

 

バスドライバーの人材派遣はドライバー稼働時間の上限規制、いわゆる2024年問題や少子高齢化などに伴いバス事業者のドライバー不足がより深刻化しかねないことから、MFTBCも共通の事業課題として検討を開始したものだ。

 

高羅本部長によると、現在、社内にプロジェクトチームを設けて検討を始めており、行政機関からの認可を取得次第、実現を目指す方針。

 

具体的な派遣部署や派遣の人員規模はまだ決まっていないとしているが、人員の多いバス生産子会社の三菱ふそうバス製造の現業部門などから募っていくものと見られる。

 

スタートに向けては、まず行政当局から認可を取得するのに数カ月の時間が必要との見通しを示し、クリアーしなければならない要件も残されている。将来的には「別組織で行う」案もでるだろうと話す。

 

 

コロナ禍で落ち込んでいた国内のバス需要については、大型路線バス、小型バスはすでにコロナ以前の水準にまで回復し、大型観光バスについてもインバウンドや様々なイベントが再開されたことで、需要回復が見込まれている。

 

実際、MFTBCのバス生産台数もコロナ禍前の2019年対比で大型路線バスは2023年の暦年で7%減の水準にまで回復し、小型バスは51%増となった。ただ、大型観光バスはまだ60%減の水準にとどまっている。

 

国内向けの4倍近い生産台数となっている輸出用の小型バス生産は国内より回復が早く2022年時点で2019年比25%減の水準に回復し、2023年は18%減の水準に戻した。

 

高羅本部長は、大型観光バスを含めコロナ禍で代替を先送りした保有バス車両も相当数あるとし、需要回復と相まって今後、「一時的、コロナ禍前の水準を上回る」可能性も出ているとの見方を示す。

 

MFTBCの2023年の国内のマーケットシェアは大型観光バスが64%、大型路線バスが38%、小型バスが54%となっている。

 

 

コロナ禍で需要が激減した時期の取り組みでは、車両分野については「3分で社内の空気が入れ替わる」(藤岡社長)ようコロナ感染防止用品の開発、販売に注力した。

 

事業分野では、バスの組み立て、塗装などの技術を生かし、光岡自動車との協業で乗用車の組み立てやトヨタ「RAV4」のバディへの再組立て、さらにバスリニューアル、ボディプリントなどを手掛けたという。

 

一方、コロナが5類に移行した2023年下半期からは人流・観光需要の急増により、バス需要が急速に回復。大型観光バスについても2024年は2019年比27%減までの持ち直すと予想する。

 

また、事業を取り巻く環境についてもコロナ禍を機に変化しており、具体的には感染症対策仕様の定着や廉価版と高級化のバスの二極化が進み、豪華仕様の観光バスのニーズなどが高まっているとした。

 

中長期的には、わが国の人口減少に伴って国内のバス需要は緩やかに減少していくと予想。これに対し、MFTBCはバス事業についても海外向けの拡大を検討課題に掲げ、現状、小型バスにとどまっているのを大型バスについても視野に入れたいとした。

 

 

日野自動車との経営統合については、実施委時期が延期されたが、当初からバス事業も対象になっており、その内容に変化はないと述べた。

 

カーボンニュートラルへの対応では、電気バスの検討や工場のCO2(二酸化炭素)排出ゼロなどの取り組みを示した。

 

報道陣との質疑応答の要旨は次のとおり。

 

――バスドライバーの自残派遣の具体的な内容および日野自動車との経営統合の進捗状況をお聞かせください。

 

高羅 人材派遣はバスドライバーの派遣を検討しているものです。最終的な設計はまだ煮詰まっていませんが、まずはバス製造の中で人材派遣の資格を取得するところから始めることを考えています。

 

そこからスタートし、次にお客様と相談しながらということになりますが、我々の新人社員の多くがバス免許を取得しており、例えば、繁忙期の半年、場合によっては1年間というかたちで行うことなどが考えられるでしょう。

 

契約や費用負担などはお客様との相談になると思います。地域も首都圏だけでなく、全国区で展開する方向で検討したい考えです。人材をみても、我々の方が多く確報できることもあります。

 

日野自動車との経営統合については、プロジェクトチームに入っていないため詳しくはわからないが、バス事業も当初から対象になっており、その協議内容については変わっていません。

 

――バスドライバーの人材派遣の検討は工場の人員に余剰感があるためでしょうか。

 

藤岡 コロナ禍では、生産を落とすかたちで生産調整しました。しかし、雇用は確保するという前提で、県内外の協力企業に派遣したほか、雇用調整助成金などで対応してきました。

 

今回のドライバー派遣の検討は、当時とは全く異なり、余剰だからというわけではありません。どのような人員を派遣するかはこれからの検討課題であり、バス事業全体で取り組んでいく考えです。

 

 

――バスドライバー派遣の具体的な内容や時期は。

 

高羅 まだ具体的な内容は決まっていません。まずは基礎をつくること。そのうえで、いくつかのお客様にお声がけをしてトライアルするところから始め、育てていきたいと考えています。

 

そのうえで事業として展開できれば良いですが、劇的な起爆剤になるとは当然、思っていません。何かしら、お客様の助けになれればと考えているところです。

 

さらに陣容が拡大するようであれば、今の現場だけでは対応できなくなり、別のドライバー専用の組織が必要になるかもしれません。そうなるかは未定であり、現状、お客様と相談している段階であり、現実的な線を見据えながら進めたいと思っております。

 

――2022年に、MFBTCは大型観光バスのシェアが80%を超えましたが。豪華バスなど今後のバスの需要見通しは。

 

高羅 シェア80%超えは日野自動車のエンジン出荷停止などの要因のためです。今後の需要見通しでいえば、少人数で非常に豪華なバスのニーズを求める動きなどが出ています。

 

コロナ禍前はインバウンド需要に対応した輸送量への対応が多くありましたが、現在は日本人のツアーでも豪華バス仕様を求める動きが出ていることを感じています。コロナ禍の中で、ソーシャルディスタンスを求める動きが出てきたのも一つの要因かなと思っており、一人当たりのスペースの広さを求めるニーズが高まっていると聞いています。
路線バスについてはコロナ禍前後で仕様ニーズに大きな変化はありません。

 

――観光バスの需要推移の見通しは。

 

高羅 観光バスについていえば、実はコロナ禍前の2019年もその前の2017年、16年より落ちており、その点で、2019年の水準が一般的な年間の需要水準といえそうです。

 

このため、2019年比でみると、その需要水準に回復する可能性はあるでしょう。さらに短期的にみると、コロナ禍でお客様が代替を先延ばしにしたケースも少なくなく、設備投資との兼ね合いもありますが、19年の水準を上回ることが出てくるかもしれません。中長期的には2019年の数字が一つの指標になるでしょう。

 

 

――2030年、40年の長期的な見通しは。

 

高羅 長期的にはわが国の人口減少に伴って緩やかに需要は減少していくでしょう。ただ、観光バスと路線バスで見方が異なり、例えば、路線バスでいえばドライバー不足もあってコロナ禍で減らしたダイヤが今も戻っていないところが少なくありません。地域によっては、減らしたダイヤのままです。

 

半面、事業への関心度からみると、路線バスや高速バスなど定期運行に対する使命感が強く、ドライバーもそちらへシフトしているところがあります。収益性でいえば、観光バス事業の方が路線バスより高いでしょう。一方で、鉄道と同様にバス路線廃止の動きもあり、路線バス、観光バスへドライバーをどのようにシフトするかによって、需要が変化してくることになるでしょう。

 

――新規事業の見通しは。

 

高羅 ドライバー派遣事業などの比率は高くはならないでしょう。やはり我々としてはバス事業にしっかりと取り組み、お客様にお届けするというのが目標になります。

 

それともう一つ目標に掲げるのが海外事業です。現状、小型バスしか輸出しておらず、今後、大型バスなども視野に入るでしょう。全世界をみると、日本のバス市場は2%程度にとどまっています。我々は小型バスについては60~80か国に出荷しており、国内の4倍です。

 

――資材高騰などに対し、バスの出荷価格引き上げは検討しているのでしょうか。

 

高羅 モデルイヤーのタイミングに合わせて、スペック改良や原材料費高騰分のいくらかを価格に転嫁し、お客様と交渉していくことになるでしょう。もちろん、我々もできる限りコスト削減に取り組み、上昇分を吸収できるよう取り組んではいます。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。