NEXT MOBILITY

MENU

2024年6月14日【アフター市場】

グッドイヤー、ル・マン24時間レースに臨む舞台裏

坂上 賢治

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 

2024年はグッドイヤーにとって、2020年にル・マン24時間に復帰して以来、最大の年となる。今年のル・マン24時間でグッドイヤーは、23台のLMGT3マシンと、ヨーロピアン・ル・マン・シリーズやアジアン・ル・マン・シリーズなどで世界を転戦する16台のLMP2マシンにタイヤを提供。この結果、グッドイヤーがタイヤを装着するマシンは昨年の24台から39台に増えた。

 

その間も含め、ル・マンの上空には5年連続で、今年もグッドイヤー・ブリンプ( 飛行船 )が飛行した。それは詰めかける何十万人ものモータースポーツファンの目を和ませるだけでなく、上空からの迫力あるレース展開の映像も提供するもの。

 

これまでグッドイヤー・ブリンプは、何十年もの間ヨーロッパ中の主要自動車レース、様々なスポーツイベント、あるいは文化的イベントの常連であり続けてきた。今日、グッドイヤーは2020年を皮切りにル・マン24時間レースへの復帰を遂げて以来、グッドイヤーの空のアイコンは再びサルト・サーキットの風物詩となっている。

 

 

歴史を紐解くと、このグッドイヤーの飛行船が初めて登場したのは1910年代の頃、これを機に様々なイベント映像を賑わす存在となっていった。

 

1950年代、グッドイヤー・ブリンプはテレビ中継に使用され、1955年には、米国の伝統的なローズパレードとカレッジフットボールのローズボウルで、空中カメラのプラットフォームとして初採用。以降、グッドイヤー・ブリンプはスーパーボウルからロイヤルウェディングまで、様々なイベントで活躍している。

 

 

現在、3機のグッドイヤー・ブリンプがオハイオ州、フロリダ州、カリフォルニア州それぞれのベース基地から全米の都市へと飛び立ち、毎年約200のイベント開催地の上空を飛行している。

 

ヨーロッパでは、2020年から4代目のグッドイヤー・ブリンプがデビューを飾り、同ブリンプは、ル・マンやニュルブルクリンクの24時間耐久レースの上空を飛行するだけでなく、ロンドン、コペンハーゲン、ミラノなどの都市を訪れている。

 

 

現在のグッドイヤー・ブリンプは、ドイツのライン・ルール地方にあるエッセン/ミュルハイム空港を拠点に飛行。全長75メートル、幅19.5メートル、高さ17.4メートルで、同種の飛行船としては世界最大の大きさを誇る。

 

ガスの総容積は8,425㎥で、この最新のブリンプでは最大限の安全性を確保するため、すべて不燃性ガスであるヘリウムが使われている。

 

 

このモデルは、技術的に言えばツェッペリンNT型半硬式飛行船であり、米国で運航されている3機のグッドイヤー・ブリンプと同じで、200馬力のエンジンを3基搭載し、最高時速125km、飛行距離1,000kmを可能にする。

 

通常、主要幹線道路や高速道路に沿って飛び立ち、最高高度3,000mに達する。そして、地上にいるクルーからのナビゲーションや通信支援を受けながら飛行する。

 

2024ル・マン24時間レースに於けるグッドイヤー・ブリンプは、金曜、土曜、日曜の3日間、合計20時間以上を飛行。1回の飛行では14人が搭乗できるため、選ばれたグッドイヤーのVIPゲストやメディア関係者は、地上300メートルの上空から大パノラマでレースを観戦することができる。

 

 

そんなル・マン24時間の檜舞台で使用される約7,250本にものぼるグッドイヤーブランドのレーシングタイヤは、ドイツのハナウにあるグッドイヤーの工場で生産され現地に向けて出荷されている。

 

ル・マンに向けてすべてのタイヤ、フィッティングエリアの設備、そしてレースウィークを通じて100人以になるチームスタッフのケータリングなどを25台以上のトレーラーを使って運搬するのだ。

 

グッドイヤーでは、トレーラーの最大積載量を最大限に効率化できるよう、これらの荷物の積み方を工夫している。また、チームスタッフ全員が同乗して現地に向かう際にも、効率性を考量したルート選択をしている。もちろん移動債の全車両にはグッドイヤーの低燃費タイヤが使われている。

 

 

なお今回のル・マンではなく、日本などへの長距離輸送が必要となるレース会場の場合、グッドイヤーは世界各地へのタイヤ輸送に海上輸送を利用している。

 

これには通関手続きなど多少複雑になるところもあるが、温室効果ガス排出量の観点からは、1トンの貨物を1マイル輸送するための航空輸送に比べて47分の1に削減できるのが利点という( 航空貨物 対 海上貨物の二酸化炭素排出量/2023年実績<英語>

 

さて世界で歴史的意味が深いル・マン24時間レースの現場で、グッドイヤーのタイヤフィッティングエリアは、レースの推移に関しても重要な役割を果たす。

 

フリー走行や予選で、F1レース2大会分ほどの距離を走る各チームのタイヤを引き取り、決勝に挑むための真新しいタイヤに交換して再び各チームに供給する。そうしてレースの週末に何千本ものタイヤを供給するためには、正確なデータモニタリング、供給管理、そしてチームワークが必要になる。

 

グッドイヤーのタイヤエンジニアチームには、レース中の路面温度や天気予報などのコンディション情報を筆頭に様々なデータが送られ、それらをリアルタイムで分析する。

 

 

分析されたデータは、各チームのグッドイヤー専任エンジニアに伝えられ、レースコンディションに対するタイヤのパフォーマンスを予測し、チームと連携しながらレースの戦略やマシンのセットアップの指針として利用される。

 

全供給タイヤの1本1本には、RFIDチップが埋め込まれおり、レース期間中のタイヤ使用状態を管理するために使われる。この情報は、レースオフィシャルにも共有され、各チームがレギュレーションを守ってタイヤを使用しているか確認される。

 

使用済みのレーシングタイヤは、グッドイヤーのモータースポーツ活動に関わるサステナビリティへ活動に則り床材などに活用される。2023年、グッドイヤーは何百本ものリサイクルタイヤから作られた床材を使ったタイヤフィッティングエリアを、毎年公開する。

 

 

今年のル・マン24時間レースへの取り組みについて、グッドイヤーヨーロッパ 耐久レース プログラム・マネージャーのマイク・マクレガー氏は、「毎年のことですが、ル・マンへの準備と参戦は1年を通して最大で特別なチャレンジです。

 

他のレースへの準備から参戦もほぼ同じプロセスですが、ル・マンのスケールは他に類をみません。グッドイヤーが5年前にWECに復帰して以来、ル・マン24時間は最大のモータースポーツイベントなので、チーム全員の意識は非常に高いです。

 

サーキット内では迫力あるレース展開がされるように舞台裏でサポートし、サーキット外では常に環境への意識を持つ素晴らしい仲間たちと一緒にル・マンに挑めることを誇りに思います」と話している。

CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。